令和8年(2026年)9月15日の臨時閣議で決定された「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱」により、就業者負担軽減支援金という新しい給付を令和9年4月から導入する方針が示されました。
令和8年8月5日の基本方針で「所得に連動したきめ細かな給付」と呼ばれていた制度に、正式な名前が付いたかたちです。大綱は、この支援金を「本格的な『給付付き税額控除』を導入する第一歩」と位置づけています。
まだ法律はできていません。 大綱は法案提出に向けて定められたもので、以下の内容は法案が成立して初めて実施されます。また、支給額と所得の線引きは大綱にも書かれていません。
大綱のもう一方の柱である飲食料品の消費税率1%への引下げは別の記事にまとめました。
制度の骨格
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 導入時期 | 令和9年(2027年)4月から |
| 単位 | 個人単位 |
| 認定する人 | 1月1日(基準日)現在の住所地の市町村長(特別区長を含む) |
| 支給回数 | 毎年1回 |
| 支払時期 | 認定または決定の日から2か月以内に、当該年度分を支払う |
| 支援額の単位 | 1,000円単位(端数切上げ) |
| 所管 | 内閣府(総務省・財務省・厚生労働省と共管) |
内閣府に「租税・社会保険料負担に関する総合調整本部」を設置し、支援金の支給に関する事務を所管します。市町村が処理する認定・支給・支払等の事務は法定受託事務とされます。
誰が対象になるか
大綱は、支給要件を次の4つとしています。具体的な金額はいずれも決まっていません。
- 勤労所得が「所得下限額」を超えること。 勤労所得とは、前年の給与収入に応じて算定した額と、一定額を超える事業所得および業務に係る雑所得との合計額です。事業所得・業務に係る雑所得は、その形態の多様さを踏まえ、就労とみなせる水準として定める額を超える場合に合計します。
- 前年の合計所得金額が「所得上限額」以下であること。 所得上限額は、19歳未満の居住者である扶養親族(扶養児童)の有無と数に応じて定めます。
- その年度の住民税額を基礎として算定した金額と、前年分の自己の負担すべき社会保険料に係る控除額との合計額から、前年中の公的年金等の収入額を控除した金額が「純負担基準額」を超えること。 この要件により、就労していて純負担が現役並みである中低所得の高齢者も対象になります。
- 1月1日(基準日)に配偶者がいた場合、その配偶者の前年の合計所得金額が「配偶者所得上限額」以下であること。
基準日に日本国内に住所を有しないときは支給されません。
令和9年度・令和10年度の支援金は、1から3までの要件を満たす人が対象で、4の配偶者要件は適用されません。また、2の扶養児童は16歳未満の扶養親族とします(本格制度では19歳未満)。
所得下限額・所得上限額・純負担基準額は、税・社会保障の制度改正や国際比較の分析を通じた事情の変化、制度導入の効果などを定期的に検証し、必要があれば改定するとされています。
ここでいう「所得」は、収入そのものの金額(額面)とは異なります。収入・所得・課税所得の違いは所得税のしくみで確認できます。
支援金の額の決め方
大綱は、金額そのものではなく金額の決め方を定めています。前年の所得の額と、扶養児童の有無・数に応じて決まります。
| 所得の位置 | 支援額 |
|---|---|
| 所得下限額以下 | 支給されない |
| 逓増開始額以下 | 定額(定額支援額) |
| 逓増開始額を超え逓増終了額まで | 一定の割合で逓増する |
| 逓増終了額を超える | 定額(支援基本額) |
| 逓減開始額を超える | 合計所得金額に応じて一定の割合で逓減する |
| 所得上限額を超える | 支給されない |
これに加えて、扶養児童がある場合は「こども加算」(人数に応じた定額)と、「年収の壁」に直面する人への「就業促進特例加算」が上乗せされます。
なぜ低い側は定額なのか
非課税ライン以下の所得は把握に執行上の課題があり、給付額を逓増させると誤支給につながる可能性があるため、定額にするとされています。逓増開始額は個人住民税の所得割が課税される水準を踏まえて定めるとされ、大綱は参考として、単身者の個人住民税所得割の非課税限度額が所得45万円(給与収入119万円)であることを挙げています。
就業促進特例加算
「年収の壁」に直面する人と、同程度の社会保険料負担のある人に対して、壁が解消するまでの時限的な措置として上乗せされる加算です。
対象は、勤労所得が被用者保険の短時間労働者の適用ラインから、「年収の壁」による可処分所得の減少が回復する水準までで、かつ被用者保険の適用に伴い生じる社会保険料相当額を支払った人です。
大綱は目安として次の数字を挙げています。
- 令和7年度における全国で最も低い地域別最低賃金である時給1,023円に、被用者保険の短時間労働者の適用労働時間である週20時間を乗じて年間の収入に換算すると、給与収入106万円(所得32万円)。この場合の社会保険料負担は約16万円程度。
- 国民年金第3号被保険者が年収130万円になり国民年金第1号被保険者になった場合、税・社会保険料負担を差し引いた手取りが回復する水準は年収約160万円程度。
なお、いわゆる「106万円の壁」のうち賃金要件の撤廃は、令和8年10月1日に施行されます。
金額が決まるのはいつか
支援基本額・こども加算額・就業促進特例加算の額・逓増開始額・逓増終了額・逓減開始額・逓減率は、いずれも恒久財源の確保と併せて検討するとされ、大綱に金額はありません。法律の規定内容や政令で定める際の考え方が示されただけです。
ただし、令和9年度・令和10年度に支給される支援金は、支援金全体として要する費用が飲食料品に係る消費税1%相当分の範囲となるよう定めるという制約が明記されています。
令和11年度の切り替え時に2回支給される
飲食料品の消費税率の引下げが終わる令和11年度は、支援金の支給が例外的に年2回になります。
- 令和11年4月に、令和10年度の受給資格者に対して、令和11年度以降の制度による支援額の半年分相当額を基本とした額を先行して支給する。
- その後、令和11年度の受給資格者に対して、当該支援額の半年分相当額を基本とした額を支給する。
地方自治体の事務負担を考慮した具体的な執行等は、地方と協議するとされています。
申請はどうなるか
原則は請求に基づく認定ですが、大綱は職権認定を原則とする運用を明記しています。
- 受給資格者であることと支援金の額が明らかである公金受取口座の登録者については、市町村長が職権で認定できる。
- 職権認定なら、申請書への口座情報の記載や通帳の写しの添付が不要になり、受給者と市区町村の双方の事務負担が軽くなる。このため、支給事務の運用においては職権認定の処理を原則とする。
- 前年度までに認定された人がその年度も要件を満たしていれば、市町村長がその年度の支援金の額を決定する。要件を満たしていなければ認定を取り消す。
- 請求・職権認定・決定の期限は、市町村の事務負担等を考慮して定める。
公金受取口座の登録状況はマイナポータルから確認できます。国は、口座実在確認機能の実装や照会対応能力の強化など、登録者数を増やすための措置を進めるとしています。
支援金の法的な扱い
- 譲り渡し、担保に供し、差し押さえることができません。 ただし国税の滞納処分(その例による滞納処分を含む)による差押えは除かれます。
- 租税その他の公課を課すことができません。
- 上記の非課税の扱いにより、既存の社会保障制度の支給要件等には影響を及ぼしません。
- ただし、生活保護制度では支援金を収入認定の対象とします。
国と地方の費用負担
支援金の支給に要する費用は、3分の2以上を国が負担し、残りを都道府県と市町村が2分の1ずつ負担します。負担割合の決定に際しては地方と協議するとされています。
地方負担は地方財政計画の歳出に全額計上し、地方交付税の算定では地方負担の全額を基準財政需要額に算入します。普通交付税の交付を受けないと見込まれる市区町村には、負担に相当する額を上限として、当分の間、特別交付金を交付します。令和9年度・令和10年度については、すべての市区町村に特別交付金を交付します。
事務費やシステム改修等の経費は、制度導入に際して全額国費で措置します。
確定申告書などの様式が変わります
令和11年度以降の制度の実施に必要な情報を市町村長が把握するため、確定申告書、源泉徴収票、住民税申告書、給与支払報告書の様式を変更します。把握する情報は次の3つです。
- 自己が負担すべき社会保険料に係る社会保険料控除額
- 扶養児童の有無および数
- 基準日に配偶者がいた人で、前年の合計所得金額が配偶者所得上限額を超える人について、その配偶者の氏名・個人番号等
3については、該当する人が地方自治体に配偶者の氏名・個人番号等を提出しなければならないこととされます。確定申告書に記載した場合は提出したものとみなされ、記載された情報はeLTAX(地方税のオンライン手続のためのシステム)を経由して市町村長に提供されます。
大綱が「今後検討する」としていること
大綱の「第四 検討等」には、結論を出す時期まで含めて次の項目が並んでいます。
- 金融所得の勘案。 後期高齢者医療制度における金融所得の勘案に係る環境整備の進展も踏まえ、支援金制度で勘案するための措置を講じる。預金等の利子所得の勘案は着実に検討し、保有資産の状況の勘案も検討する。
- 税額控除と給付を組み合わせる仕組み。 将来にわたり給付のみと限定することなく、継続して検討する。
- 国と地方の役割分担。 国の役割を拡大する方向で、制度の導入後速やかに「『給付付き税額控除』に関する国と地方の協議の場」で地方と十分に協議する。
- 支援金の対象にならない低所得の就業者や、疾病・障害等で就業が困難な人への措置。 給付と相談支援・就業支援を一体的に実施することを含めて検討し、令和10年度中に結論を得る。国民年金・国民健康保険の負担軽減措置の拡充も含めて幅広く検討する。
- 就業していない高齢者等が支援金制度と既存の社会保障制度の双方から取り残されないための措置。 次期年金法改正が予定されている令和12年までに結論を得る。
- 国民年金第3号被保険者制度の見直しと、厚生年金保険・健康保険の適用範囲の拡大の更なる推進。 次期年金法改正までに結論を得る。
- 医療・介護制度の改革を始めとする社会保障制度・雇用制度の見直し。
- 人的控除の在り方の見直しを含む所得税の抜本的な改革。 所得税法等の一部を改正する法律(令和7年法律第13号)附則第81条の規定等に基づき検討する。
- 施行後5年を目途とした支援金制度の見直し。
検討の過程で指摘された課題
制度の線引きについては、社会保障国民会議の「中間とりまとめ」(令和8年7月29日)の段階で、対象となる給与収入の線引きに複数の案がありました。有識者会議では被用者保険の短時間労働者の適用ラインを超える給与収入約106万円超とする意見と、給与所得0円超(給与収入74万円超)とする意見が、実務者会議ではこれらに加えて雇用保険の適用ラインを超える給与収入約53万円超とする意見がありました。
大綱の概要資料は、この3つの意見を「中間とりまとめにおける意見」として改めて掲げたうえで、所得下限額は「税制及び社会保険制度、就業促進の効果を考慮して定める」「特に課税所得の把握、事業所得を含めた総合的なバランス等を勘案」するとしています。どの線が採られたかは、大綱の段階では示されていません。
このほか、こども加算については制度の複雑化に対する懸念から慎重な意見があったこと、金融所得等を当初から勘案すべきとの意見があったことが中間とりまとめに記載されています。詳しくは基本方針の記事にまとめています。
いま確認できること
給付額も所得の線引きも決まっていないため、受け取れるかどうかや金額を今の時点で計算することはできません。
一方で、大綱が公金受取口座の登録者について職権認定を原則とすると明記しているため、公金受取口座の登録状況を確認しておくことには意味があります。登録があれば、申請書への口座情報の記載や通帳の写しの添付が不要になります。マイナポータルから確認できます。