「106万円の壁」(賃金要件)の撤廃が令和8年(2026年)10月1日に確定しました 施行期日を定める政令が9月11日に公布(令和8年政令第275号)

令和8年(2026年)9月11日の官報(号外第203号)に、社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律の一部の施行期日を定める政令(令和8年政令第275号)が公布されました。

たった1条の短い政令ですが、内容は大きなものです。パート・アルバイトが厚生年金・健康保険に入るかどうかの基準のうち、所定内賃金が月額8.8万円以上という要件——いわゆる「106万円の壁」——の撤廃日が、令和8年10月1日に確定しました。

厚生労働省はこれまで「令和8年10月に賃金要件を撤廃する予定」と案内してきましたが、根拠となる政令が出たことで、予定から確定に変わり、令和8年10月1日に施行されました。

政令が定めたこと

令和8年政令第275号の本文は、次の一文だけです。

社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律(以下「改正法」という。)附則第一条第一項第九号に掲げる規定(改正法第十五条中公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律(平成二十五年法律第六十三号)附則第五条第三項の表及び第三十八条第三項の表の改正規定並びに改正法第二十九条中確定拠出年金法(平成十三年法律第八十八号)第四条第一項第三号の二、第八条第一項、第五十四条の二第一項、第六十二条、第六十四条、第六十九条、第七十条第二項、第七十一条及び第七十四条の二第一項の改正規定並びに改正法附則第三十三条の規定を除く。)の施行期日は、令和八年十月一日とする。

年金制度改正法(令和7年法律第74号、令和7年6月20日公布)の附則第1条第1項第9号は、施行日を「公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日」としていた条文のグループです。今回の政令が、そのうち一部を除いた残りについて「令和8年10月1日」と決めました。

第9号に何が入っているのか

この第9号にどんな改正が含まれているのかを見ると、今回の意味がわかります。実務に関係するのは次の2つです。

1. 賃金要件(106万円の壁)の撤廃

年金制度改正法第3条は、厚生年金保険法第12条第5号について「イからハまで」を「イ又はロ」に改め、同号中ロを削り、ハをロとする、と定めています。

厚生年金保険法第12条第5号は、短時間労働者を被保険者から除外する規定で、イ・ロ・ハは次のとおりです。

内容
イ1週間の所定労働時間が20時間未満であること
ロ報酬について算定した額が8万8千円未満であること
ハ学生であること

このうちロが削られます。これが「賃金要件の撤廃」です。

同じことが健康保険側でも起きます。年金制度改正法第33条は、健康保険法第3条第1項第9号について同じ改正を行います。厚生年金と健康保険はセットなので、両方から賃金要件がなくなります。

2. 特定減額特例(適用除外の特例)の新設

同じ第9号には、厚生年金保険法附則第4条の6と健康保険法附則第8条の3の2を新設する改正も入っています。

これは、最低賃金法第7条の減額特例(精神または身体の障害により著しく労働能力が低い方、試用期間中の方などについて、都道府県労働局長の許可を受けて最低賃金を減額できる制度)の適用を受ける労働者のうち、報酬が月額8万8千円未満の方を「特定減額特例対象者」とし、賃金要件が撤廃されたあとも当分の間、被保険者としないという規定です。

ただし、本人が実施機関に申し出れば任意で加入できます(厚生年金保険法附則第4条の6第2項、健康保険法附則第8条の3の2第2項)。厚生年金と健康保険の申出は同時に行う必要があります(同条第7項)。

撤廃後、加入の基準はどうなるのか

令和8年10月1日以降、短時間労働者が厚生年金・健康保険に加入する要件は次の4つになります。

要件内容今回の改正
労働時間週の所定労働時間が20時間以上変わらない
賃金所定内賃金が月額8.8万円以上撤廃
雇用期間2か月を超える雇用の見込みがある変わらない
学生学生でない変わらない
企業規模勤め先の従業員数が51人以上段階的に縮小(下表)

つまり、週20時間以上働くかどうかが分かれ目になります。「月8.8万円を超えないように」という就業調整は、10月以降は意味を持たなくなります。

企業規模要件のほうは、今回の改正では変わりません。年金制度改正法で10年かけて段階的に縮小・撤廃することが決まっており、厚生労働省の資料では次のスケジュールです。

時期対象となる従業員数
現在51人以上
令和9年(2027年)10月から36人以上
令和11年(2029年)10月から21人以上
令和14年(2032年)10月から11人以上
令和17年(2035年)10月から10人以下(=撤廃)

なお、企業規模要件を満たさない企業でも、従業員の2分の1以上の同意があれば任意に加入できます(任意特定適用事業所)。

なぜ「令和8年10月1日」なのか

年金制度改正法の国会提出時、賃金要件の撤廃は日付が決まっていませんでした。厚生労働省は、撤廃の時期について次のように説明しています。

撤廃の時期は、法律の公布から3年以内で、全国の最低賃金が1,016円以上となることを見極めて判断します

理由は単純です。時給1,016円で週20時間働くと、月額賃金が8.8万円以上になります。最低賃金がその水準を超えれば、週20時間以上働く人は自動的に賃金要件を満たすので、賃金要件そのものが意味を持たなくなります。

厚生労働省の資料(令和8年1月作成)は、「今般、全ての都道府県で令和7年度地域別最低賃金が時給1,016円を超えたことにより、週20時間以上働くすべての方が自動的に社会保険の加入対象になるため、令和7年年金制度改正法に基づき、令和8(2026)年10月に賃金要件を撤廃する予定です」としていました。今回の政令は、その予定どおりの日付を確定させたものです。

今回の政令から除かれたもの — iDeCoの年齢引上げは日付が決まらないまま

見落とされやすい点ですが、今回の政令は第9号のすべてを施行するものではありません。3つの固まりが明示的に除かれています。

除かれた規定中身
改正法第15条中、平成25年改正法附則第5条第3項の表・第38条第3項の表の改正規定共済関係の経過措置の表
改正法第29条中、確定拠出年金法第4条第1項第3号の2、第8条第1項、第54条の2第1項、第62条、第64条、第69条、第70条第2項、第71条、第74条の2第1項の改正規定iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入可能年齢の引上げなど
改正法附則第33条の規定上記に関する経過措置

このうち確定拠出年金法第62条第1項に第5号を加える改正が、「前各号に掲げる者に該当しない六十歳以上七十歳未満の者であって、申出の日の前日において個人型年金加入者であったもの……」を個人型年金加入者に加えるもの、すなわちiDeCoの加入可能年齢を70歳未満に引き上げる改正です。

これらは引き続き「公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日」のままです。年金制度改正法の公布日は令和7年6月20日なので、期限は令和10年6月19日ということになりますが、具体的な日付はまだ決まっていません。「令和8年10月1日から70歳までiDeCoに入れる」わけではない点に注意してください。

同じ日に公布された関係政令・省令

令和8年9月11日の官報(号外第203号)には、年金関係で次の4本が並んでいます。

番号題名
令和8年政令第275号年金制度改正法の一部の施行期日を定める政令(本記事)
令和8年政令第276号年金制度改正法の一部の施行に伴う関係政令の整備に関する政令
令和8年政令第277号公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う関係政令の整備及び経過措置に関する政令の一部を改正する政令
令和8年厚生労働省令第138号年金制度改正法の一部の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令

このうち政令第276号は、厚生年金保険法施行令に第6条の2以下を加えて、上で述べた特定減額特例対象者の資格の取得・喪失の手続などを定めています。施行期日を決めた政令第275号とセットで読むものです。

また、同じ令和8年10月1日から、「保険料調整制度」も始まりました。こちらは9月4日に公布された令和8年政令第272号・令和8年厚生労働省令第137号で中身が決まっており、新しく社会保険に入ることになった短時間労働者の保険料の一部を、事業主が申し出て肩代わりできる仕組みです(通算3年間)。ただし、施行日(令和8年10月1日)の時点ですでに特定適用事業所(従業員51人以上)である事業所は、政令第6条により申出ができません。賃金要件の撤廃で加入した人の勤め先がこれに当たる場合、保険料調整制度は使えません。詳しくはパートの社会保険料を会社が肩代わりできる「保険料調整制度」の中身が決まりましたをご覧ください。

公務員と私立学校の共済も同じ改正(9月30日公布)

厚生年金・健康保険と同じ被用者保険である共済組合でも、短時間で働く人の「報酬月額8万8千円以上」という要件を削る政令が、令和8年9月30日に公布されました(官報号外第215号)。

番号対象主な内容
令和8年政令第310号国家公務員共済組合(非常勤の国家公務員など)国家公務員共済組合法施行令第2条第1項第9号のロ(報酬月額8万8千円以上)を削除。最低賃金の減額特例を受ける人を「特定減額特例対象者」とし、申出により加入できる仕組みを新設
令和8年政令第311号地方公務員共済組合(非常勤の地方公務員など)地方公務員等共済組合法施行令第2条第1項第7号のロを削除。特定減額特例対象者の扱いは同じ。令和8年10月1日施行(一部は令和9年10月1日)
令和8年政令第312号私立学校教職員共済(学校法人等の教職員)月額報酬8.8万円未満の短時間労働者を加入者としない要件を撤廃。令和8年10月1日施行

財務省は意見募集の結果の中で、国家公務員共済の改正について「令和8年の最低賃金引き上げにより同号イ(週20時間以上勤務)の要件を満たせば自動的に同号ロ(報酬月額8万8千円以上)を満たすことになるため、同号ロの要件を削除するもの」と説明しています。厚生年金と同じ理屈です。

私立学校教職員共済については、文部科学省の概要によると、短時間労働者を加入者としなければならない学校法人等の範囲(現在は50人を超える学校法人等)も、令和17年10月1日までに段階的に引き下げて全ての学校法人等にします。新たに加入者となった短時間労働者と学校法人等には、当分の間、掛金負担を軽減する経過措置が置かれます。

指摘された課題

年金制度改正法の国会審議では、衆議院厚生労働委員会(令和7年5月30日)と参議院厚生労働委員会(令和7年6月13日)で附帯決議が行われています。適用拡大に関する部分は次のとおりです。

事務負担への懸念

企業規模要件の撤廃などの適用拡大に伴う経過措置として実施する、事業主が労使折半を超えて社会保険料を負担し、労使折半を超えて負担した社会保険料を制度的に支援する特例措置が円滑に行われるよう、必要な措置を講ずること。とりわけ、この特例措置が、事業主及び保険者に多大な事務負担を課すものとならないよう、システム改修等を含めた事務負担の軽減に配慮すること。また、被用者保険の適用拡大により保険料負担が増加する中小企業及び小規模企業者に対しては、政府が実施する各種の支援措置の十分な周知に努めること。(第一項)

事業主支援を一律に行うことへの疑問

被用者保険の適用拡大により被用者保険に加入することとなる標準報酬月額の比較的低い短時間労働者の中には、国民年金の第一号被保険者から第二号被保険者になることで社会保険料の被保険者負担が軽減する者がいることから、被用者保険制度内で財源を賄うこととしている被用者保険の適用拡大に伴う経過措置として行われる事業主支援を一律に行うことは合理性に問題があるのではないかとの指摘があることを考慮しつつ……支援の対象となる第二号被保険者の範囲について整理すること。(第二項)

さらなる適用拡大の検討

短時間労働者への被用者保険の適用拡大について、企業規模要件の撤廃を待つことなく早期に任意の適用を進めるための方策について検討を加え、必要な措置を講ずるよう努めること。また、国民健康保険制度の在り方等に留意するとともに、雇用保険の加入要件が令和十年十月から週十時間以上になることなどを踏まえ、労働時間要件の週十時間以上への引下げ等、更なる短時間労働者の被用者保険への適用拡大について検討を加え、必要な措置を講ずること。(第三項)

また、保険料調整制度の政令案・省令案に対する意見公募(令和8年4月27日〜5月26日、結果公示は9月4日)でも、健康保険組合の実務負担への配慮を求める意見が出ています。厚生労働省は「健康保険組合の皆様が保険料調整制度の実務を行われるにあたり、本制度に過度に不安を感じることのないよう、円滑な実施に向けて、本制度の意義・趣旨も含め、現場の皆様と丁寧にコミュニケーションを取っていきたい」と回答しています。

なお、施行期日を定めるだけの政令には意見公募手続は行われません。今回の政令第275号についてパブリックコメントが実施されていないのはそのためです。

いま確認したいこと

働いている方

  • 勤め先の従業員数が51人以上で、週20時間以上働いているなら、10月1日から厚生年金・健康保険の対象になっている可能性が高いです。勤め先に扱いを確認してください
  • 保険料が給与から引かれるようになるため、当面の手取りは減ります。一方で、将来受け取る老齢厚生年金が増え、病気やけがで働けないときの傷病手当金、出産手当金の対象にもなります
  • 「月8.8万円を超えないように」という就業調整は、10月から意味がなくなる可能性が高いです
  • 配偶者の扶養から外れる「130万円の壁」は今回変わりません。混同しないようにしてください

事業主・人事労務の担当者

  • 週20時間以上働いていて、賃金要件だけで対象外になっていた従業員を洗い出してください。この方々は10月1日から一斉に被保険者になりました
  • 令和8年10月1日付の被保険者資格取得届の提出が必要です(資格取得日から5日以内)
  • 最低賃金の減額特例の許可を受けている従業員がいる場合は、特定減額特例対象者にあたるかどうかを確認してください。この方々は原則として加入せず、本人の申出があれば加入します
  • 保険料調整制度を使うかどうかを検討してください。使う場合は、対象になった日から2年以内に申し出る必要があります

出典

家族に説明するなら

パートやアルバイトで働いている人が、自分で厚生年金と健康保険に入るかどうかの線引きに「月8.8万円(年収にすると約106万円)以上かどうか」という条件があったんだ。これが9月11日に出た政令で正式に決まって、2026年10月1日になくなったよ。これからは、勤め先が従業員51人以上で、週20時間以上働いていて、学生じゃなければ、給料の額に関係なく社会保険に入ることになる。「106万円を超えないように」とシフトを調整してきた人は、10月からその調整に意味がなくなる可能性が高い。保険料が引かれるぶん手取りは減るけれど、将来の年金は増えるし、病気やけがのときの手当も出るようになる。同じ10月1日から、会社が本人の保険料の一部を肩代わりできる仕組み(保険料調整制度)も始まったよ。ただ、10月1日の時点ですでに従業員51人以上だった会社は、この仕組みを使えないんだ。なお、配偶者の扶養から外れる「130万円の壁」のほうは、今回は変わらないよ。

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