令和8年(2026年)10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策と、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が、事業主に義務づけられます。
根拠は労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号・令和7年6月11日公布)です。施行日は、施行期日を定める政令(令和8年政令第17号)により令和8年10月1日と定められました。
措置の具体的な内容を定める指針2本(令和8年厚生労働省告示第51号・第52号)は令和8年2月に告示され、解釈を示すQ&Aも令和8年4月24日に示されています。
パワーハラスメント防止措置が義務化されたときと同じ枠組みで、方針の明確化・周知と相談窓口の設置が柱になります。
カスタマーハラスメントとは
指針では、職場におけるカスタマーハラスメントを次のように定義しています。3つの要素をすべて満たすものです。
- 職場において行われる顧客等の言動であって
- その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより
- 労働者の就業環境が害されるもの
電話やSNS等のインターネット上で行われるものも含まれます。
一方で、顧客等からの苦情のすべてがカスハラに当たるわけではありません。厚生労働省は「客観的にみて、社会通念上許容される範囲で行われたものは、いわば正当な申入れであり、職場におけるカスタマーハラスメントには当たらない」と説明しています。
また、障害者から不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去を必要としている旨の意思を表明すること自体は、カスタマーハラスメントには当たりません。
「顧客等」の範囲
顧客、取引の相手方、施設(駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設等)の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者とされ、今後商品の購入やサービスの利用等をする可能性がある者も含まれます。
具体例として、商品の購入やサービスの利用をする者、事業に関する問い合わせをする者、取引先の担当者、企業間の契約締結交渉の担当者、施設・サービスの利用者及びその家族、施設の近隣住民が挙げられています。
「社会通念上許容される範囲を超えた言動」の例
| 類型 | 例 |
|---|---|
| 言動の内容が範囲を超えるもの | そもそも要求に理由がない又は商品・サービス等と全く関係のない要求/契約等により想定しているサービスを著しく超える要求/対応が著しく困難な又は対応が不可能な要求/不当な損害賠償要求 |
| 手段や態様が範囲を超えるもの | 身体的な攻撃(暴行、傷害等)/精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等)/威圧的な言動/継続的、執拗な言動/拘束的な言動(不退去、居座り、監禁) |
判断にあたっては、言動の目的、経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性などを総合的に考慮するとされています。「言動の内容」「手段や態様」の一方のみが範囲を超える場合でも該当し得る点に留意が必要です。
カスハラ防止のために講ずべき措置(10項目)
事業主が必ず講じなければならない措置です。
方針等の明確化及び周知・啓発
- カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する
- カスハラの内容及びあらかじめ定めた対処の内容を労働者に周知する(例:管理監督者に対応方針の指示を仰ぐ、可能な限り労働者を一人で対応させない、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する、本社・本部等へ情報共有を行い指示を仰ぐ)
相談体制の整備
- 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する
- 相談窓口担当者が適切に対応できるようにする
事後の迅速かつ適切な対応
- 事実関係を迅速かつ正確に確認する
- 被害者に対する配慮のための措置を適正に行う
- 再発防止に向けた措置を講ずる
抑止のための措置
- 特に悪質と考えられるカスハラへの対処の方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、当該対処を行うことができる体制を整備する
併せて講ずべき措置
- 相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知する
- 相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する
8番目の「抑止のための措置」は、他のハラスメントの措置義務にはない、カスハラ特有の項目です。
なお、対策を講じる際には、消費者の権利や、障害者差別解消法における障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止・合理的配慮の提供義務に留意する必要があるとされています。
他の事業主への協力(努力義務)
事業主は、カスハラに関し、他の事業主から事実関係の確認等の雇用管理上の措置の実施に必要な協力を求められた場合には、これに応ずるよう努めなければなりません。
あわせて、協力を求められたことを理由に契約解除等の不利益な取扱いを行うことは望ましくないこと、協力した労働者に不利益な取扱いを行わない旨を定めることが望ましいことなどが示されています。
求職者等に対するセクシュアルハラスメントとは
事業主が雇用する労働者による性的な言動により、求職者等による求職活動等が阻害されるものをいいます。
「求職者等」「求職活動等」の範囲
求職者等は、企業の求人に応募する者のほか、事業主の実施する労働者の採用に資する活動に参加する者、教育実習、看護実習その他の実習を受ける者が含まれます。
求職活動等の例として、企業の採用面接への参加、就職説明会への参加、企業の雇用する労働者への訪問(OB・OG訪問等)、インターンシップへの参加、教育実習・看護実習等の実習の受講が挙げられています。SNS等のオンラインを介したものやオンライン上で行われるものも含まれます。
指針では、次のような例が示されています。
- インターンシップにおいて、労働者が求職者等に対して性的な冗談やからかいを意図的かつ継続的に行ったため、当該求職者等が苦痛に感じてインターンシップ中の活動が手につかないこと
- 求職者等が労働者への訪問を行った際、当該労働者に性的な関係を求められ、当該求職者等が苦痛に感じてその求職活動等の意欲が低下していること
- インターンシップ中に労働者が求職者等を執拗に私的な食事に誘い、当該求職者等が苦痛に感じてその求職活動等の意欲が低下していること
男性も女性も加害者にも被害者にもなり得るもので、同性に対するものも該当します。また、相手の性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず該当することがあり得るとされています。
求職者等セクハラ防止のために講ずべき措置(11項目)
方針等の明確化及び周知・啓発
- 求職者等に対するセクハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する
- 行った者については厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を、労働者に周知・啓発する
- 求職活動等に関するルールをあらかじめ明確化し、労働者及び求職者等に周知・啓発する(例:面談時間及び場所の指定、実施体制、やり取りに用いるSNSの種類の指定等、面談等を行う際の規則)
相談体制の整備
- 相談窓口をあらかじめ定め、求職者等に周知する
- 相談窓口担当者が適切に対応できるようにする(人事担当者以外を相談窓口担当者とすることも考えられるとされています)
事後の迅速かつ適切な対応
- 事実関係を迅速かつ正確に確認する
- 被害者に対する配慮のための措置を行う
- 行為者に対する措置を適正に行う
- 再発防止に向けた措置を講ずる
併せて講ずべき措置
- 相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者及び求職者等に周知する
- 労働者が事実関係の確認等に協力したこと等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する
3番目のルールの明確化と、4番目の相談窓口を求職者等(社外の人)に周知する点が、社内向けのハラスメント対策とは異なる部分です。
望ましい取組
義務ではないものの、次のような取組が望ましいとされています。
- 大学等のキャリアセンター等から求職者等に対するセクハラに係る相談に関する情報提供があった場合に、連携して適切な対応を行うこと
- 求職者等に対するパワーハラスメントに類する行為(妊娠・出産等に関するハラスメントに類する行為、育児休業等に関するハラスメントに類する行為を含む)についても、同様の方針を併せて示すこと
- 求職者等から、顧客等による求職者等へのカスハラに類すると考えられる相談があった場合にも、防止措置を参考にしつつ必要に応じて適切な対応を行うよう努めること
事業主・労働者の責務
両制度に共通して、次の事項に努めることが責務とされています。
事業主は、カスハラ/求職者等セクハラに起因する問題に対する労働者の関心と理解を深めること、労働者が他の事業主が雇用する労働者や求職者等に対する言動に必要な注意を払うよう研修の実施その他の必要な配慮をすること、事業主自身も関心と理解を深めることです。
労働者は、これらの問題に対する関心と理解を深め、他の事業主が雇用する労働者や求職者等に対する言動に必要な注意を払うこと、事業主の講ずる雇用管理上の措置に協力することです。
いつから・企業規模による違いは
- 改正法(令和7年法律第63号)の公布:令和7年6月11日
- 施行日:令和8年(2026年)10月1日(令和8年政令第17号)
- 指針2本の告示:令和8年2月(令和8年厚生労働省告示第51号・第52号)
- 通達・解釈事項の発出:令和8年4月24日
厚生労働省の公表資料には企業規模による猶予は示されておらず、施行期日を定める政令も一律に令和8年10月1日としています。パワーハラスメント防止措置のように中小企業の適用開始が後ろ倒しになる形にはなっていません。
なお、解釈事項Q&Aは令和8年10月1日から適用されていますが、一部の設問(問22〜問26、問38〜問40)については令和8年4月24日から適用とされています。
関係する政省令・告示
| 名称 | 番号 |
|---|---|
| 労働施策総合推進法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令 | 令和8年政令第17号 |
| 事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針 | 令和8年厚生労働省告示第51号 |
| 事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針 | 令和8年厚生労働省告示第52号 |
| 同法の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令 | 令和8年厚生労働省令第18号 |
| 同法の施行に伴う厚生労働省関係告示の整備等に関する告示 | 令和8年厚生労働省告示第53号 |
| 同法の施行に伴う関係政令の整備に関する政令 | 令和8年政令第181号 |
誰に関係するか
労働者を雇用するすべての事業主が対象です。特に、小売・飲食・運輸・医療・福祉・自治体窓口など顧客等と直接接する職場では、カスハラ対応が現場の運用に直結します。
新卒採用やインターンシップ、教育実習の受入れを行う企業は、求職者等セクハラの措置として、社外の求職者等に向けた相談窓口の周知と求職活動等に関するルールの明確化が新たに必要になります。OB・OG訪問やSNSでのやり取りも対象に含まれる点に注意してください。
すでにパワハラ・セクハラの相談窓口や就業規則の規定がある場合は、今回の2類型を追加する形で見直すのが実務上の出発点になります。
就職活動中の学生・求職者は、面接やインターンシップ、OB・OG訪問の場で性的な言動を受けた場合に、企業が設置する相談窓口に相談できるようになりました。都道府県労働局雇用環境・均等部(室)でも相談を受け付けています。
相談先
- 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)(受付時間 8時30分〜17時15分/土・日・祝日・年末年始を除く)
出典
- 令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について(厚生労働省)
- 職場におけるハラスメントの防止のために(厚生労働省)
- リーフレット「令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!」(厚生労働省・PDF)
- 事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)(PDF)
- 事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第52号)(PDF)
- 労働施策総合推進法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(令和8年政令第17号)(PDF)
- ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について(令和8年4月24日)(PDF)
- 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について(雇均発0424第1号)(PDF)
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第10章の規定等の運用について(雇均発0424第2号)(PDF)