仕事・雇用 重要度: 高

学校版カスハラのガイドラインを文部科学省が作成(令和8年8月28日) 教職員へのカスハラ防止措置は10月1日から学校設置者の義務に(施行済み)

文部科学省は令和8年(2026年)8月28日、「学校と保護者・地域住民等とのより良い関係構築のためのガイドライン」(副題「保護者等の社会通念上許容される範囲を超えた言動への対応指針」)を公表しました。本体35ページと、保護者・地域住民向けの1枚ものの資料がセットになっています。

背景にあるのは、令和8年10月1日からカスタマーハラスメント防止措置が事業主の義務になったことです。根拠は令和7年6月11日公布の令和7年法律第63号(労働施策総合推進法等の一部改正)で、措置の内容は令和8年厚生労働省告示第51号(カスタマーハラスメント防止指針)が定めています。

この義務は教育現場にも適用されます。ガイドラインは、厚生労働省の防止指針を学校の実情に置き換え、学校設置者が何をすればよいかを解説したものです。各ページに、対応する防止指針の該当箇所が併記されています。

なお、令和8年10月1日には求職者等セクシュアルハラスメントの防止措置も義務になりましたが、このガイドラインが扱うのはカスタマーハラスメントの防止措置だけです。

「学校設置者」とは誰か

ガイドラインの名宛人は学校設置者です。定義は次のとおりです。

学校の種類学校設置者
公立学校学校を設置・管理する教育委員会
私立学校学校法人
株式会社立学校学校設置会社
国立大学法人が設置する附属学校国立大学法人

措置を講ずる義務は学校設置者にあります。学校(校長など管理職)が単独で背負う仕組みではありません。

対象になる言動

防止措置の対象となるのは、次の3つの要素をすべて満たす言動です。

  1. 学校等において行われる保護者や地域住民等の言動であって
  2. 教職員が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより
  3. 教職員の就業環境が害されるもの

用語の範囲が広く取られている点が重要です。

  • 学校等 — 教職員が業務を遂行する職場。通常就業している学校以外でも、業務を遂行する場所は含まれる(例:部活動等での引率先、家庭訪問時の児童生徒等の自宅)
  • 保護者や地域住民等 — 児童生徒等の保護者・親族・知人などの関係者、および地域住民等
  • 教職員 — 校長、副校長、教頭、主幹教諭、主務教諭、教諭、助教諭、養護教諭、栄養教諭、講師等に加え、事務職員、学校栄養職員、用務員、教員業務支援員その他の学校の運営を支える全ての職員。ガイドラインは、ボランティア等の雇用関係にない者であっても広く学校運営を支える関係者は同様に保護することが大切だとしています
  • 就業環境が害される — 身体的・精神的に苦痛を与えられ、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業する上で看過できない程度の支障が生じること

対象には、学校での対面のやり取りだけでなく、電話やSNS等のインターネット上で行われるものも含まれます。

一方で、ガイドラインは「保護者や地域住民等からの意見・苦情等の全てが対象の言動に該当するわけではありません」「社会通念上許容される範囲で行われたものは、今回の防止措置の対象には当たりません」と明記しています。

社会通念上許容される範囲を超えるかの判断

判断は、言動の目的、行われた経緯や状況、態様・頻度・継続性、教職員の心身の状況、行為者との関係性などに着目して総合的に行います。ガイドラインは、学校設置者または教職員の側の不適切な対応が言動の原因や背景となっている場合があることにも留意が必要だとしています。

典型例としてa〜iの9類型が挙げられています(限定列挙ではありません)。

類型例
a. そもそも要求に理由がない、または学校における教育活動と全く関係のない要求性的な要求、教職員の家庭や私生活に関する要求
b. 学校の教育活動および学校運営の範囲を著しく超える対応を求めるもの児童生徒等の学校外での行動や公園での遊び方などに対する監視の要求、明らかに学校の責務とは言えない要求(家庭内の問題の解決の要求、特定の児童生徒専用のタブレットケースの購入要求、誕生日プレゼントの要求など)
c. 対応が著しく困難な、または対応が不可能な要求修学旅行の費用について不合理な減額や免除を求めること、クラス替えや担任の変更・退職を求めること(いじめが背景にある場合は事実確認のうえ適切に対応)
d. 相当性を欠く賠償要求教育活動と無関係である不当な賠償請求、成績の低下を理由とする賠償請求
e. 身体的な攻撃殴る・蹴る・叩く、物を投げつける、わざとぶつかる、つばを吐きかける
f. 精神的な攻撃脅迫(「SNS上に悪評を投稿するぞ」「自宅に行くぞ」)、SNS等へのプライバシー情報の投稿、教職員を無断で撮影・録画・録音すること、同様の電子メール等の執拗な送りつけ、勤務時間外や自宅を訪れての謝罪の強要
g. 威圧的な言動大きな声をあげて威嚇・威圧する、声を荒らげ執拗に責め立て高圧的に要求を主張する
h. 継続的、執拗な言動何度も電話して要求を繰り返す、家庭訪問を何度も要求する、同様の質問を執拗に繰り返し文書での回答を強要する
i. 拘束的な言動長時間の校内での居座り、頻繁な長時間の電話、校内施設からの不退去

教職員の就業環境が害されるかの判断は「平均的な労働者の感じ方」を基準とします。頻度や継続性は考慮しますが、強い身体的・精神的苦痛を与える態様であれば1回の言動でも該当し得るとされています。

具体的なシナリオ例

ガイドラインは、該当するものとしないものの線引きを3つのケースで示しています。訴えの内容そのものではなく、手段・態様が線になっていることが読み取れます。

CASE 1(授業の指導に関する苦情) — 「担任が十分に指導できていない、担任を交替しろ」と担任に怒鳴りつけ、執拗に電話をかけ、校長との面会を何度も申し入れる。 → 担任の指導に納得がいかないという訴えだけでは該当しない。一方で、発言内容を問わず担任に怒鳴りつけることはg、学校に執拗に電話をかけることはhに当たると考えられる。

CASE 2(児童生徒等の学外での行動に関する苦情) — 「下校中に生徒がぶつかってきた、代わりに担任が土下座して謝れ」と大声で威嚇し、つばを吐きかける。 → 学校の監督範囲を超える指導や懲戒の要求はb、土下座の要求はf、大声での威嚇はg、つばを吐きかけることはeに当たると考えられる。

CASE 3(児童生徒等間の問題に関する要求) — 「隣の席の児童にちょっかいを出されて集中できない、仕事終わりに担任と校長に会わせろ、席替えをさせるまで帰らない」と勤務時間外に訪問し応接室に居座る。 → 訴えそのものは該当しない。要求に応じるまで居座る行為、勤務時間外の面会の強要はiに当たると考えられる。

ガイドラインは、判断ポイントに当てはまるかどうかだけでなく、要求の背景や理由を把握したうえで対応する必要があるとしています。

学校設置者が講ずべき措置

カスハラ防止指針に基づき、学校設置者には次の①〜⑤の措置が義務づけられ、⑥は努力義務です。

措置内容
①方針等の明確化およびその周知・啓発方針がない場合は地域の実情に合った方針を整理する。既にある場合は指針に即した内容か点検する
②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備教職員からの相談体制を整える。既存の窓口を使う場合も、相談窓口としての位置づけの明確化と周知が必要
③事案発生後の迅速かつ適切な対応速やかに事実確認をし、被害者に十分な配慮をしたうえで再発防止に努める
④対応の実効性を確保するために必要な措置特に悪質な事案への対処方法をあらかじめ明確化し、警察や弁護士等の外部機関との連携を含めて対処できる体制を整備する
⑤①〜④と併せて講ずべき措置相談者のプライバシーの確保と、相談したことによる不利益取扱いの禁止を周知する
⑥他の事業主の講ずる措置の実施に関する協力他の事業主から事実確認等の協力を求められた場合は協力する

①の方針に取り入れる対処方法の例として、ガイドラインは次を挙げています(限定列挙ではありません)。

  • 教職員から学校管理職に直ちに報告し、その場の対応の方針について指示を仰ぐこと
  • 可能な限り教職員を一人で対応させないこと。必要に応じて当該教職員に代わって学校管理職が対応すること
  • 保護者や地域住民等とのやり取りについて、相手に断りを入れたうえで録音すること。あわせて個人情報保護法等を遵守すること
  • 学校での対応が困難な場合は、公立学校であれば教育委員会へ、私立学校であれば学校法人へ情報共有を行い、連携して対応すること
  • 十分な説明を行ってもなお繰り返しの要求が続く場合には、一定の時間の経過をもって退室を求めたり、電話を切ったりすること

方針は教職員への周知が義務ですが、ガイドラインは同じ内容を保護者や地域住民等に周知することも被害の防止に効果的だとしています。そのための1枚ものの資料(「保護者・地域住民の皆様へ 学校とのより良い関係構築にご協力ください」)が同時に公表されています。

前提として置かれている考え方

ガイドラインは、措置の解説に入る前の第1章に、保護者や地域住民等は教育上の重要なパートナーであるという位置づけを置いています。学校に寄せられる意見・要望・相談には真摯に向き合い、教育活動の充実・改善に生かしていく必要があるとしたうえで、社会通念上許容される範囲を超えた言動については毅然とした対応が求められる、という構成です。

①の措置の説明でも、「事案の発生原因や背景には、教職員側の対応や保護者や地域住民等とのコミュニケーションの不足などもあることに留意し、それらを広く解消していく取組を進める」ことが対応のポイントとして挙げられています。

指摘された課題

このガイドラインは意見公募手続を経たものではありませんが、文部科学省は令和7年度の委託事業(「行政による学校問題解決のための支援体制の構築に向けたモデル事業」採択自治体)として、11自治体の公立学校を対象にアンケート調査を行い、結果をガイドライン内に掲載しています。

  • 回答した563校のうち42.6%が、令和7年度中に「過剰な苦情・不当な要求等」を受けたことがあったと回答
  • 教員3,485人のうち、過剰な苦情・不当な要求等を受けた経験が「あった」と答えた920人では、保護者等対応を負担に感じることが「いつもあった」が40.9%、「たまにあった」が52.5%。経験が「なかった」2,565人では「いつもあった」は15.6%

文部科学省は、対象が限定された調査であるとしたうえで、困難な対応に直面している学校・教職員も少なくないことが読み取れるとしています。なお、この調査でいう「過剰な苦情・不当な要求等」は、ガイドラインの「保護者等の社会通念上許容される範囲を超えた言動」とは定義が異なると注記されています。

いつから

カスタマーハラスメント防止措置の義務化は令和8年(2026年)10月1日からです。ガイドライン自体は令和8年8月に作成され、8月28日に公表されました。企業規模や自治体規模による猶予は設けられていません。

出典

家族に説明するなら

学校の先生に、保護者や近所の人が大きな声で怒鳴ったり、何度もしつこく電話をかけたり、土下座を求めたりすることがあるよね。2026年10月1日からは、こういう「カスハラ」から働く人を守るしくみを用意することが、会社だけでなく教育委員会や学校法人にも義務になったんだ。それに合わせて文部科学省が、どんな言動が行きすぎになるのか、学校はどう備えればいいのかをまとめた手引きを作ったよ。ふつうの相談や意見はもちろん対象外だからね。

本記事は公式情報をもとにした要約です。最新かつ正確な情報、申請条件、期限は必ず公式ページでご確認ください。