何が起きたか
令和8年(2026年)9月4日の官報(号外第198号)に、次の2本が公布されました。
- 社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律の一部の施行に伴う経過措置に関する政令(令和8年政令第272号)
- 同じ名前の省令(令和8年厚生労働省令第137号)
どちらも附則で施行日が定められています。
この政令は、令和八年十月一日から施行する。
この省令は、令和八年十月一日から施行する。
名前は長くて中身が想像しにくいのですが、定めているのは「保険料調整制度」の具体的な数字と手続きです。根拠になっている法律は、令和7年(2025年)6月20日に公布された社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律(令和7年法律第74号。政令の中では「令和七年改正法」と呼ばれています)で、その附則第22条から第25条までが該当します。
保険料調整制度とは何か
社会保険(厚生年金・健康保険)の適用は、これから段階的に広がっていきます。従業員数の要件が下がっていき、いままで加入対象でなかった短時間労働者が新しく加入することになります。
加入すれば将来の年金は増えますが、その月から保険料が引かれるので手取りは減ります。ここが就業調整の原因になってきました。
保険料調整制度は、この段差をやわらげるための仕組みです。日本年金機構の案内では次のように説明されています。
事業主は、被保険者の保険料を一時的に負担することにより、対象となる被保険者の健康保険・厚生年金保険の保険料負担を、通算3年間軽減することができます
厚生年金・健康保険の保険料は、通常は事業主と本人で半分ずつ(50:50)負担します。この制度を使うと、その割合を事業主に寄せることができます。
負担割合が政令で確定した
政令第2条が、令和七年改正法附則別表第二に定める「増加負担割合」の中身を定めました。標準報酬月額の等級ごとに、厚生年金保険料率に次の割合を乗じた率を、免除後厚生年金保険料率で除して得た割合、という形で書かれています。
| 標準報酬月額等級 | 政令が定める割合(1〜2年目) | 3年目 |
|---|---|---|
| 第1級(88,000円以下) | 100分の25 | 100分の12.5 |
| 第2級(98,000円) | 100分の20 | 100分の10 |
| 第3級(104,000円) | 100分の14 | 100分の7 |
| 第4級(110,000円) | 100分の9 | 100分の4.5 |
| 第5級(118,000円) | 100分の5 | 100分の2.5 |
| 第6級(126,000円) | 100分の2 | 100分の1 |
3年目は「100分の二に二分の一を乗じて得た割合」というように、いずれも2分の1になります。
これを本人と事業主の負担割合に直したものが、日本年金機構の案内に載っています。政令の数字と一致します。
| 標準報酬月額 | 1〜2年目(本人:事業主) | 3年目(本人:事業主) |
|---|---|---|
| 88,000円以下 | 25:75 | 37.5:62.5 |
| 98,000円 | 30:70 | 40:60 |
| 104,000円 | 36:64 | 43:57 |
| 110,000円 | 41:59 | 45.5:54.5 |
| 118,000円 | 45:55 | 47.5:52.5 |
| 126,000円 | 48:52 | 49:51 |
通常が50:50ですから、たとえば標準報酬月額88,000円以下の人であれば、事業主が25ポイント分を上乗せして負担することになります。給料が低い等級ほど軽減の幅が大きく、126,000円の等級では2ポイントにとどまります。
対象になる事業所
政令第1条と省令第3条が、対象になる事業所を定めています。柱になるのは適用拡大のスケジュールです。
- 令和9年10月1日から令和17年9月30日までの間に、厚生年金保険法第6条第3項の規定により適用事業所となった事業所(政令第1条第1号)
- 厚生年金保険法第6条第1項第1号イからレまでに掲げる事業以外の事業の適用事業所で、令和9年10月1日から令和11年9月30日までの間に特定労働者の総数が常時50人を超えた事業所(省令第3条第1号)
- 同じく、令和11年10月1日から令和17年9月30日までの間に特定労働者の総数が常時50人を超えた事業所(省令第3条第2号)
- 令和9年10月1日から令和17年9月30日までの間に特定労働者の総数が常時50人を超えた事業所であって、その属する月の前月において常時5人未満の従業員を使用する適用事業所であった事業所(省令第3条第3号)
日本年金機構の案内では、これに加えて令和8年10月1日以降に任意特定適用事業所になった事業所も対象として挙げられています。
申し出ないと使えない
制度は自動では動きません。事業主が申し出て初めて適用されます。日本年金機構の案内では次のように書かれています。
事業所が保険料調整制度の対象となった日から2年以内に、事業主からの申し出が必要
政令第6条は、逆に申出をすることができない事業所を6つ列挙しています。たとえば次のようなものです。
- 施行日(令和8年10月1日)において現に特定適用事業所である事業所
- 施行日以後に適用事業所となった事業所であって、適用事業所となった日において特定労働者の総数が常時50人を超えるもの
- 令和七年改正法附則第22条第1項各号に掲げる適用事業所のいずれかに該当したにもかかわらず、該当した日から起算して2年を経過した日の属する月の前月までに申出がされなかった事業所
つまり、期限を過ぎると使えなくなります。
手続きは省令が定めています。日本年金機構に申出書を提出して行うもので、記載事項は事業所の名称・所在地、事業主の氏名または名称、基準日または適用事業所となった日です。協会けんぽの適用事業所の事業主が健康保険の分と同時に申し出るときは、申出書に併記できます。申出書の様式(「健康保険・厚生年金保険 保険料調整(開始/停止解除)申出書」)は、令和8年10月1日に日本年金機構のページに掲載されました。提出先は事務センターまたは管轄の年金事務所で、郵送か窓口持参、添付書類はありません。
利用できるのは、申出書が受け付けられた日の属する月からです。期間をさかのぼって制度を利用することはできません(日本年金機構)。2年の申出期限は「いつまでに出せば使えるか」の期限であって、申し出る前の月の分まで軽減されるわけではありません。
「106万円の壁」とは別の話です
混同しやすいので分けて書きます。
| 内容 | 状況 | |
|---|---|---|
| 賃金要件の撤廃 | いわゆる「106万円の壁」。所定内賃金が月額8.8万円以上という要件をなくす | 施行期日政令(令和8年政令第275号・令和8年9月11日公布)により令和8年10月1日に施行。詳しくは「106万円の壁」(賃金要件)の撤廃 |
| 企業規模要件の段階的縮小 | 従業員数の条件を令和9年10月から段階的に下げていく | 令和7年法律第74号で決定済み |
| 保険料調整制度(この記事) | 新しく加入することになった人の保険料の一部を事業主が肩代わりできる | 令和8年10月1日施行(令和8年政令第272号・令和8年厚生労働省令第137号) |
この記事で扱うのは3つ目です。1つ目と施行日は同じ令和8年10月1日ですが、別の改正です。賃金要件の撤廃で新しく加入した人がいても、勤め先が施行日の時点ですでに特定適用事業所であれば、政令第6条により保険料調整制度の申出はできません。
注意点
- 義務ではありません。 保険料調整制度を使うかどうかは事業主の判断です。対象事業所であっても、申し出なければ通常どおり折半になります
- 働く人の側の手続きはありません。 申出は事業主が行います
- 通算3年間の期限があります。 3年目は上乗せ分が半分になり、その後は折半に戻ります
- 肩代わりされるのは保険料の負担であって、将来の年金額が減るわけではありません。 標準報酬月額に応じた記録は通常どおり残ります
- 政令第3条により、保険料調整額等の計算では50銭未満の端数は切り捨て、50銭以上1円未満の端数は1円として計算します
指摘された課題
施行前の令和8年9月の時点で、日本年金機構の案内は届書の様式を「厚生労働省から示され次第、掲載予定」としていました。様式が掲載されたのは、制度が始まった令和8年10月1日当日です。利用は申出書の受付月からで、さかのぼりはできません。
また、対象事業所の範囲は政令第1条と省令第3条に分かれて書かれており、さらに「申出をすることができない事業所」が政令第6条に6号にわたって列挙されています。自社が対象かどうかを条文だけから判断するのは容易ではなく、日本年金機構や年金事務所への確認が必要になると考えられます。
公式リンク
- 保険料調整制度のご案内(日本年金機構)
- 保険料調整制度の開始申出の手続き(日本年金機構・申出書の様式あり)
- 年金制度改正法が成立しました(厚生労働省)
- 社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律(令和7年法律第74号)の概要等(厚生労働省年金局)
- 令和8年9月4日付 官報 号外第198号(インターネット版官報)
根拠
- 社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律の一部の施行に伴う経過措置に関する政令(令和8年政令第272号・令和8年9月4日公布/官報号外第198号)
- 社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律の一部の施行に伴う経過措置に関する省令(令和8年厚生労働省令第137号・令和8年9月4日公布/官報号外第198号)
- 社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律(令和7年法律第74号)附則第22条から第25条まで
- 厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)第6条、第81条
- 公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律(平成24年法律第62号)附則第17条