令和8年(2026年)9月15日の臨時閣議で、「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱」が決定されました。
この大綱は、令和8年8月5日に閣議決定された「給付付き税額控除」の制度導入の基本方針を具体化したものです。大綱の柱は2つあり、この記事はそのうち飲食料品の消費税率の引下げを扱います。もう一方の就業者負担軽減支援金は別の記事にまとめました。
まだ法律はできていません。 大綱は「必要な法制上の措置等を可及的速やかに講ずるため、法案提出に向けて」定められたものです。以下の内容は、法案が国会で成立して初めて実施されます。
何がどうなるか
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 期間 | 令和9年(2027年)4月1日から令和11年(2029年)3月31日までの2年間 |
| 税率 | 1%(消費税0.78%+地方消費税0.22%相当分) |
| 対象 | 現在、軽減税率8%が適用されている飲食料品 |
| 対象範囲の変更 | なし(8%のときと同じ範囲) |
| 対象外 | 週2回以上発行される新聞の定期購読分(8%のまま) |
大綱は、引下げの理由を「現下の物価の上昇に鑑み」臨時的に2年間に限って行うものと説明しています。
どの食品が対象かの線引きは変わりません。 いま8%で買っているものが1%になり、いま10%で買っているもの(外食、酒類など)は10%のままです。軽減税率8%の対象である新聞だけが、今回の引下げからは外れます。
8%のままになる予約販売・通信販売
令和9年4月1日以後の販売でも、次の2つは特例税率の対象から除かれ、8%のままになります。税率を前提にした契約の変更が難しい事例が生じると見込まれるためです。
- 定期供給契約(不特定かつ多数の者に定期的に継続して供給する契約)のうち、令和9年1月1日より前に契約を締結し、令和9年4月1日より前に対価を領収している分。1年分の代金を先払いすると旬の食材が毎月届く、といった契約が例として挙げられています。
- 通信販売のうち、令和9年1月1日より前に販売条件が提示され、令和9年4月1日より前に申込みを受けた分。
いずれも、はじめから特例税率(1%)を前提とする契約・条件提示は除かれます。つまり、令和9年1月1日以後に1%を前提として結び直したものは1%です。
事業者向けに用意される特例
本則課税に移りやすくする特例
飲食料品を扱う事業者の中には、税率が1%に下がると還付申告ができる立場になる人がいます。しかし現行制度のままでは、令和9年4月1日が属する課税期間がすでに始まっている事業者や、簡易課税を選んで2年たっていない事業者は、本則課税に移ることができません。そこで次の措置を講じます。
- 課税事業者選択届出書を、その課税期間の末日までに提出すれば、課税期間の初日の前日に提出したものとみなす。
- 簡易課税制度選択不適用届出書についても同様とし、あわせて簡易課税制度のいわゆる「2年縛り」(2年間の継続適用要件)を適用しない。
簡易課税制度の特例
簡易課税制度を使っている事業者は、税率が下がっても現行制度のままだと飲食料品の販売について一定の納付税額が発生します。一方、本則課税なら納付税額が発生しない場合が多いと見込まれます。
このため、簡易課税制度の適用を受ける事業者が対象の飲食料品を譲渡した場合、その譲渡に対応する仕入控除税額を、業種区分にかかわらず売上税額と同額にする特例を設けます。いわゆる2割特例・3割特例を使う場合も同様です。
飲食料品以外の商品の販売については、これまでどおりの簡易課税制度が適用されます。
中間申告の特例
前年に納めた消費税額をもとに計算すると、中間申告の税額が過大になります。そこで次の措置を講じます。
- 令和9年4月1日以後に開始する中間申告対象期間は、前の課税期間に特例税率(1%)が適用されていたものとして計算した額を記載できる(その額がなければ零)。
- 令和11年4月1日以後に開始する中間申告対象期間は、逆に特例税率が適用されなかったものとして計算した額を記載できる。
総額表示の特例
総額表示の義務そのものは維持されます。 税抜価格(本体価格)だけを表示する方法や、税抜価格に「+税」とだけ添える方法は、引き続き認められません。
ただし、夜間に値札を貼り替えられない、カタログや商品パッケージに価格が印字されている、といった理由で、税率変更時に適切な税率での総額表示が間に合わないことがあります。そこで、直ちに対応することが困難な事情がある場合に限り、本来表示すべき税込価格と誤認されないための措置を講じていることを条件に、次の表示が認められます。
| 期間 | 表示してよい価格 |
|---|---|
| 令和9年2月1日〜3月31日 | 特例税率(1%)に基づく税込価格 |
| 令和9年4月1日〜5月31日 | 軽減税率(8%)に基づく税込価格 |
| 令和11年2月1日〜3月31日 | 軽減税率(8%)に基づく税込価格 |
| 令和11年4月1日〜5月31日 | 特例税率(1%)に基づく税込価格 |
税率が変わる日の前後、最大で各2か月間ずつということになります。
請求書の書き方
対象の飲食料品を譲渡した場合・譲渡を受けた場合の適格請求書、仕入明細書その他の書類については、「適用税率」の欄に特例税率を、「消費税額等」の欄に特例税率に基づく消費税額等を記載します。売上げに係る対価の返還等、貸倒れ、仕入れに係る対価の返還等も特例税率に基づいて計算します。
農林漁業者・食品事業者・外食事業者への対応
大綱は、引下げの影響を受ける事業者への対応を次のように定めています。具体的な支援内容は、関係府省庁が連携し、予算編成過程で具体化するとされています。
- 農林漁業者:利子負担を考慮しつつ資金繰りを支援する。特に本則課税に移ることが困難な簡易課税事業者・免税事業者については、第一次産品の生産・販売を担う特殊性に鑑み、売上げから回収できない仕入税額が大きくなって経営継続が困難とならないよう、個別の売上高を踏まえた金額を給付する仕組みを導入する。
- 食品事業者・外食事業者:資金繰り支援、生産性向上に向けた省力化等の取組の支援を行う。外食事業者についてはテイクアウト等の多角化の支援を講じるなど、外食と中食・内食の税率差による影響の及ぶ業態を見極めた上で支援する。
- 本則課税事業者への移行にあたっての相談対応や、税理士費用等の経費に対する支援を行う。
あわせて、スマートレジシステムへの移行やレジシステムの改修を行う中小企業等に対する支援を行い、緊急時における消費税率の変更に柔軟に対応できるシステムの普及促進を図るとしています。
地方の減収分の扱い
引下げによる地方消費税の減収額は、全額を地方特例交付金により補塡し、各年度において必要な地方交付税総額を適切に確保するとされています。
まだ決まっていないこと
大綱の段階では、次の点は決まっていません。
- 法律そのもの。大綱は法案提出に向けて定められたもので、内容は国会の審議を経て確定します。
- 農林漁業者への給付の金額や要件。「個別の売上高を踏まえた金額」という考え方が示されただけで、予算編成過程で具体化されます。
- 食品事業者・外食事業者への支援の中身。同じく予算編成過程で具体化されます。
- 財源。特例公債に頼らず、補助金等及び租税特別措置の適正化、追加的な租税収入以外の収入の確保その他の歳出・歳入全般の見直しにより確保するとされ、令和9年度の予算編成過程で結論を得るとされています。
検討の過程で指摘された課題
この引下げの検討過程では、社会保障国民会議の「中間とりまとめ」(令和8年7月29日)で、仕入税額控除の還付が受けられない農業従事者等や外食産業への影響、高所得者ほど恩恵が大きいこと、減税分ほど税込価格が下がらない可能性、2年後の税率引上げに係る懸念、関係する事業者の事務負担、地方を含めた財源の確保、消費税率の変更に柔軟に対応できるシステムにする必要性が課題として挙げられました。
実務者会議では「消費税率の時限的な引下げではなく給付で対応すべき」「財源を確保した上で恒久的に減税すべき」といった意見も出され、経過措置の具体案について意見の一致には至りませんでした。それぞれの意見の中身は基本方針の記事にまとめています。
いま確認できること
買う側の手続きは何もありません。実施されるのは令和9年4月1日からで、それまでは今までどおりです。
飲食料品を扱う事業者は、次の点を早めに確認しておくことができます。大綱も「事業者やそれらに関連するシステムメーカー等が早期に準備に着手できるよう、関係府省庁は、制度の詳細についてできる限り早急に公表して広報活動を開始する」としています。
- レジ・受発注・請求システムが1%の税率に対応できるか、改修にどれくらいかかるか
- 定期購入・頒布会・カタログ通販を扱っている場合、令和9年1月1日より前の契約がどれだけあるか
- 簡易課税や免税事業者の場合、本則課税に移るべきかどうか(特例の内容が固まってから顧問税理士に相談する材料になります)
- 値札・カタログ・商品パッケージの価格表示を、いつどう切り替えるか