令和8年(2026年)6月5日に公布された健康保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第31号)で、「一部保険外療養(いちぶ ほけんがい りょうよう)」という新しいしくみが作られました。
ドラッグストアで買える市販薬(OTC医薬品)と代替性が特に高い薬を病院や診療所で処方してもらったとき、その薬剤費の4分の1を「特別の料金」として、保険の対象外で負担することになります。
施行日は令和9年(2027年)3月1日です。令和8年9月30日の官報で、改正法附則第1条第4号に掲げる規定の施行期日を令和9年3月1日とする政令(令和8年政令第320号)が公布されました。
何が変わるのか
いまは、医師が処方した薬は、市販薬に似たものであっても保険が使え、自己負担は原則1〜3割です。改正後は、対象になった薬について、次のように負担が増えます。
| 費用の内訳 | 改正後の扱い |
|---|---|
| 技術料 | これまでどおり保険給付(自己負担は原則1〜3割) |
| 薬剤料のうち4分の3 | これまでどおり保険給付(自己負担は原則1〜3割) |
| 薬剤料のうち4分の1 | 保険給付の対象外=「特別の料金」として全額自己負担 |
特別の料金には、別途消費税がかかります。
厚生労働省は、この見直しの理由として次の2点を挙げています。
- 医療用医薬品の給付を受ける患者と、市販薬で対応している患者との公平性の確保
- 現役世代を中心とする保険料負担の上昇の抑制
対象になる薬
対象になるのは、市販薬(要指導医薬品または一般用医薬品)との代替性が特に高い薬で、77成分・約1,100品目とされています。
主な対応症状として、厚生労働省は次のものを挙げています。
- 鼻炎
- 胃痛・胸やけ
- 便秘
- 解熱・痛み止め
- 風邪症状全般
- 腰痛・肩こり
- みずむし
- 口内炎
- 皮膚のかゆみ・乾燥肌 など
どの医薬品が対象になるかという具体的な範囲と、特別の料金の設定は、厚生労働大臣の告示で定められます。 現時点では成分数と品目数の目安が示されている段階で、個別の品目名は公表されていません。今後の告示を確認してください。
配慮が検討されている人
厚生労働省は、次のような人への配慮を検討するとしています。
- こども
- がん患者や難病患者など、配慮が必要な慢性疾患を抱えている人
- 低所得者
- 入院患者
- 医師が対象医薬品の長期使用等が医療上必要と考える人 など
配慮の具体的な内容と対象の範囲は、まだ決まっていません。 また、この法律の附則には、対象医薬品の範囲や特別の料金の設定などの厚生労働大臣の定めの在り方について検討し、その結果に基づいて所要の措置を講ずるという検討規定が置かれています。
いまどの段階か
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 令和8年6月5日 | 健康保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第31号)が公布 |
| 令和8年8月13日〜9月12日 | 関係省令の整備に関する省令案について意見募集(パブリックコメント)を実施(受付終了) |
| 令和8年9月30日 | 施行期日を定める政令(令和8年政令第320号)、関係告示の整備に関する告示(厚生労働省告示第360号)、療養担当規則の改正省令(厚生労働省令第143号)が公布 |
| 令和9年3月1日 | 一部保険外療養の施行 |
意見募集にかけられた省令案は、一部保険外療養の創設に伴って、健康保険法施行規則・船員保険法施行規則・国民健康保険法施行規則・高齢者の医療の確保に関する法律施行規則などを整備するものです。具体的には、保険外併用療養費に係る領収証の記載事項、療養費の支給の申請の記載事項、特定疾病給付対象療養等に要した費用の額の算定に利用する情報などに、一部保険外療養に関する事項を追加します。
また、高齢者の医療の確保に関する法律施行規則第33条第3項に基づく一部負担金減免等証明書の交付を受けた人が、保険医療機関等にその証明書を提出すべき場合として、一部保険外療養を受けようとする場合が追加されます。
意見の受付は令和8年9月12日23時59分で終了しました(e-Govの意見公募)。令和8年9月30日の時点では、この省令案の結果の公示と関係省令の公布はまだ行われていません。
一方、同じ9月30日に厚生労働省告示第360号(健康保険法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係告示の整備に関する告示)が公布されました。生活保護法の診療方針・診療報酬や、高齢者の医療の確保に関する法律の療養の給付等の取扱い及び担当に関する基準、診療報酬の算定方法などの告示に、「一部保険外療養」を加えるものです。たとえば「評価療養、患者申出療養及び選定療養」という規定が「評価療養、患者申出療養、選定療養及び一部保険外療養」に改められます。この告示も令和9年3月1日から適用されます。対象となる医薬品と特別の料金を定める告示は、まだ出ていません。
同じ9月30日には、保険医療機関及び保険医療養担当規則及び保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則の一部を改正する省令(厚生労働省令第143号)も公布されました(令和9年3月1日施行)。病院・診療所が患者から受け取る一部負担金について、一部保険外療養を受けた場合は、療養にかかった費用の額から厚生労働大臣が定めるところにより算定した額を差し引いた額をもとに計算すると定めます。あわせて、一部保険外療養について特別の料金を受け取るときは、療養の種類・内容に応じて厚生労働大臣が定める基準に従わなければならないとする規定が新設されました(第5条の4第2項)。この省令は、題名のとおり保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則もあわせて改正しています。
セルフメディケーション税制との関係
市販薬に関する制度としては、セルフメディケーション税制があります。こちらは対象の市販薬を年1万2千円を超えて買ったときに所得控除が受けられるもので、令和9年1月1日から対象が拡大されます。
一部保険外療養は「病院で処方された薬の保険給付を一部外す」しくみ、セルフメディケーション税制は「市販薬を自分で買ったときに税を軽くする」しくみで、方向は違いますが、いずれも市販薬で対応できるものは市販薬でという考え方に沿ったものです。
同じ法律で決まった他の見直し
令和8年法律第31号では、一部保険外療養のほかに次の見直しも行われます。施行日はそれぞれ異なります。
| 内容 | 施行 |
|---|---|
| 高額療養費制度の支給要件等を定める際に、長期療養者の家計への影響を考慮することを法律上明確化 | 令和8年8月1日(施行済み) |
| 国民健康保険の子どもの均等割保険料の5割軽減の対象を、未就学児から高校生年代まで拡充(対象は約50万人から約180万人へ) | 令和9年4月1日 |
| 出産育児一時金に代わる新しい給付方式の導入(分娩1件当たりの基本単価を国が設定し、保険者から施設に直接支給)と、全ての妊婦への定額の現金給付 | 公布後2年以内 |
| 妊婦健診について、国が「標準額」を定め、内容・費用の見える化を進める(こども家庭庁所管) | 公布後2年以内 |
| 後期高齢者医療で、上場株式の配当等の金融所得を保険料の算定や窓口負担割合の判定に反映 | 公布後5年以内 |
| 業務効率化・勤務環境改善に取り組む病院を厚生労働大臣が認定するしくみを創設 | 令和9年4月1日(一部は令和9年1月1日) |
高額療養費制度そのものの見直しについては高額療養費制度が令和8年8月から見直しにまとめています。
出典
- 健康保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第31号)の概要(厚生労働省)
- 健康保険法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う関係省令の整備に関する省令案に関する御意見の募集について(e-Gov・令和8年8月13日)
- 官報 令和8年9月30日(号外第215号)健康保険法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令(第320号)
- 官報 令和8年9月30日(号外第215号)健康保険法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係告示の整備に関する告示(厚生労働省告示第360号)
- 官報 令和8年9月30日(号外第215号)保険医療機関及び保険医療養担当規則及び保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則の一部を改正する省令(厚生労働省令第143号)