仕事・雇用 重要度: 高

小売・飲食の店舗のカスハラ対策が義務に(令和8年10月1日施行) 一人で店番しているときの対処と「出入り禁止」の扱い

令和8年(2026年)10月1日から、小売店・飲食店・サービス業の店舗を運営する事業主にも、カスタマーハラスメント防止措置が義務づけられます。職場がまだ何もしていなくても施行日は変わらず、事業主は方針、相談体制、事後対応、抑止のための措置などを整える必要があります。

店舗で働く従業員本人に新たな措置義務が課されるのではありません。特に一人で店番をする時間がある職場では、要求が続いたときに退店を求める場合、電話を切る場合、警察へ通報する場合、本社・本部へ連絡する場合を、職場が実態に応じて定めることが想定されています。

録音・録画には個人情報保護法との関係があり、「出入り禁止」は個別事案で必ず行う義務ではありません。店舗に必要なのは、判断を従業員一人に任せることではなく、利用目的や対処方針を定め、実際に対応を判断できる体制です。

それでも職場が必要な措置を講じず、従業員と事業主の間で紛争になった場合、民間の労働者には都道府県労働局長の援助・調停があります。これは、国家公務員・地方公務員には適用されない、民間の労働者が使える仕組みです。

どこまでが「顧客等」か

改正労働施策総合推進法第33条第1項の「顧客等」は、商品を購入した顧客だけを指す言葉ではありません。条文は、「顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者」と定めています。

厚生労働省の解釈事項の問1は、まだ商品を購入しておらず、契約関係も発生していない潜在的な顧客も「顧客等」に含まれると説明しています。問2では、今後顧客になることが想定されるかどうかを問わず、施設の近隣住民からの言動も対象になり得るとしています。

ただし、顧客等からの言動が全てカスハラになるわけではありません。次の3つの要素を全て満たす必要があります。

  1. 職場において行われる顧客等の言動であること
  2. 従業員が従事する業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること
  3. その言動により、従業員の就業環境が害されること

店舗内での無断撮影も、それだけで直ちに全てがカスハラに該当するわけではありません。問5が「精神的な攻撃」に該当し得る例として示すのは、従業員が撮影をやめるよう求めたのに、顧客等が撮影を続ける行為です。この場合も、3つの要素を全て満たすかどうかが前提になります。

一人で店番しているときにできること

解釈事項の問15は、従業員が1名の店舗では、管理監督者が代わって対応したり、その場で被害者と行為者を引き離したりできない場合があることを前提に、職場が定めておく対処の例を示しています。

  1. 従業員から十分に説明しても繰り返し要求が続く場合は、一定の時間が経過した時点で退店を求める、または電話を切る
  2. 暴行、傷害、脅迫など、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する
  3. 現場での対応が困難な場合は、本社・本部等へ情報を共有し、指示を仰ぐ

これらは、厚生労働省が示した対処の例です。どのような状況でどの対処をするかは、各事業主が従業員の状況など、職場の実態に応じて定める必要があります。従業員本人が職場へ確認するポイントは、こうした一人勤務時の手順が定められ、周知されているかどうかです。

一人勤務の店舗でも、事後の対応は必要です。従業員から相談があり、カスハラが生じた事実が確認できた場合、事業主は事案の内容や状況に応じて、行為者に対応する担当者の変更、被害者と行為者を引き離すための配置転換、管理監督者または事業場内産業保健スタッフ等によるメンタルヘルス不調への相談対応など、被害者への配慮のための措置を講ずる必要があります。

録音・録画と個人情報保護法

解釈事項の問10は、録音・録画で取得する情報が個人情報に該当する場合、個人情報保護法に基づき、利用目的をできる限り特定し、本人に通知または公表する必要があると説明しています。原則として、その利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱うこともできません。

録音・録画した個人情報をカスハラ事案の事実確認に使う場合は、そのような確認に使う場合があることを利用目的としてできる限り特定し、通知または公表する必要があります。公表方法の例には、プライバシーポリシー等に利用目的を記載し、自社のホームページのトップページから1回程度の操作で到達できる場所に掲載する方法が挙げられています。

問11によると、この通知または公表の義務は、録音・録画していることをその場で伝える義務まで必ず含むものではありません。一方で、偽りその他不正の手段による個人情報の取得は認められていません。少なくとも、カメラの設置状況などから、本人がカメラによる個人情報の取得を容易に認識できない場合には、容易に認識できるようにするための措置が必要です。

その場で顧客等の同意を得たうえで、やり取りを録音・録画することも、個人情報保護法等を守った対応の例として示されています。その場で伝える義務まではないという説明と、条件なく録音・録画した情報を扱えるという説明は同じではありません。

相談先は「窓口」でなくてもよい

カスハラは、事案が発生したその場ですぐ相談することや、現場の状況に詳しい上司等へ相談することが適切な場合があります。そのため、解釈事項の問12は、パワハラやセクハラなどの相談窓口と一体にする必要はなく、上司に当たる管理監督者等を相談担当者として定めることも考えられるとしています。

問40も、「相談に対応する担当者」をあらかじめ定めていれば、相談窓口を定めたと認められる例になると説明しています。相談への対応を外部の機関へ委託する方法もあります。

したがって、職場に「カスハラ相談窓口」という名称の部署が見当たらないことだけで、体制がないとは限りません。従業員が確認すべきなのは、相談や苦情を誰が受け、発生時に誰へ連絡すればよいかがあらかじめ定められているかです。

「出入り禁止」は義務ではない

特に悪質と考えられるカスハラへの対処方針として出入り禁止を定めても、個別の事案で必ず出入り禁止にしなければならないわけではありません。

問16が事業主に求めているのは、特に悪質と考えられるカスハラへの対処方針をあらかじめ定めて従業員へ周知し、その対処を行える体制を整えることです。その体制の下で、方針に基づき、個別事案について出入り禁止の措置を講じるかどうかを判断する必要があります。

問17によると、この方針のために別の文書を必ず作る必要はありません。一般のカスハラへの対処内容を明確にして周知・啓発するときに、特に悪質な事案への対処方針も併せて定め、周知できます。

また、問18は、改正法が事業主に何らかの措置を行う新たな法的権利や権限を設けるものではないと説明しています。警告文の発出や店舗・施設等への出入り禁止は、特に悪質なカスハラへの対処の例です。各事業主が職場の実態に応じて対処内容を定める必要があります。

問19では、信用失墜行為や服務規律違反に対する懲戒規定など、既存の規定に基づいて必要な措置を講じられる場合は、就業規則等を改正してカスハラの規定を新たに設ける必要は必ずしもないとされています。新しい規定の有無だけでなく、対処方針が明確で、周知され、判断できる体制になっているかが確認点です。

本部から配られたマニュアルだけでは足りない

解釈事項の問21は、複数の事業主が一体となってマニュアルを策定した場合でも、その策定に関わっていない事業主が、他の事業主が作ったマニュアルを自社の従業員へ周知するだけでは、対処内容を定めて周知する措置義務を果たしたことにはならないと説明しています。

問21の更問も、業界団体が作った業種別マニュアルを単に配布するだけでは、方針の明確化や対処内容の策定・周知に関する措置義務を果たしたことにはならないとしています。本部から業種別マニュアルが配られていても、それだけで足りるとは限りません。

必要なのは、そのマニュアルを参考に、自社の実情に応じた調整を行うことです。そのうえで、カスハラに毅然とした態度で対応し、従業員を保護する方針を明確にし、対処内容を策定して周知する場合は、措置義務を果たしたことになります。方針や対処内容と併せて業種別マニュアルを配布することは、効果的な対応とされています。

一方、その事業主自身が同じ業種・業態等の複数の事業主と一体となってマニュアルの策定に参画し、自社の従業員へ周知した場合は、対処内容を定めて周知する措置義務を果たしたことになります。違いは、用意された資料を配っただけか、自社が策定に参画したか、または自社向けに必要な調整をしたかです。

事実確認はどこまで求められるか

相談した時点で行為者が店を離れ、連絡先も分からないことがあります。問13は、行為者へ連絡することが不可能な場合にまで、行為者から事実関係を確認する必要はないと説明しています。

その場合でも、正確な事実確認のため、必要に応じて周囲の従業員から話を聴いたり、録音・録画などの客観的な証拠を確認したりすることが考えられます。事実関係を迅速かつ正確に確認することは、事業主の義務です。

また、行為者が勤務先の業務とは関係のない私的な場面でカスハラを行った場合、問14は、その行為者の勤務先へ協力を求める必要はないとしています。行為者の勤務先が自社の取引先で、その業務に関連してカスハラが行われた場合などは、必要に応じて協力を求めることが考えられます。

民間の労働者だけが使える仕組み

まず、改正労働施策総合推進法第33条第2項は、従業員がカスハラについて相談したことや、事業主の相談対応に協力して事実を述べたことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをすることを禁止しています。

職場が必要な措置を講じない場合や、相談等を理由とする不利益な取扱いをめぐり、従業員と事業主の間で紛争になった場合には、同法に次の仕組みがあります。

  • 第35条「紛争の解決の促進に関する特例」
  • 第36条「紛争の解決の援助」。当事者の双方または一方が解決の援助を求めた場合、都道府県労働局長は必要な助言、指導または勧告を行うことができる
  • 第37条「調停の委任」・第38条「調停」

事業主は、従業員が第36条の援助を求めたことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをすることも禁止されています。また、解釈事項の問41によると、調停のために必要があると認められるときに出頭を求めることができる参考人には、過去にその事業所で雇用されていた人や同じ事業所で働く派遣労働者に加え、カスハラの紛争では顧客等も含まれます。

第42条第2項には、厚生労働大臣が第33条第1項・第2項などに違反する事業主へ勧告を行い、その事業主が勧告に従わなかった場合に、その旨を公表できる規定があります。

ただし、第48条により、第35条から第39条までは国家公務員・地方公務員には適用されません。この労働局長の援助・調停のルートは、民間の労働者に用意された仕組みです。

この違いは、自治体の窓口職員もカスハラ防止措置の対象、国の窓口職員のカスハラ対策は人事院規則10―17で整理しています。医療のように別の事情がある職場については、病院・診療所・訪問看護のカスハラ対策を参照してください。

誤解しやすいところ

都道府県労働局は、具体的に発生した個々の顧客等の言動について、カスハラに該当するかどうかを判断する機関ではありません。解釈事項の問6は、事実関係を迅速かつ正確に確認することは事業主の義務であり、労働局は個々の言動の該当性を判断しないと説明しています。

また、問18が示すとおり、改正法は、事業主が顧客等へ何らかの措置を行う法的な権利や権限を新設するものではありません。今回の改正の中心は、事業主に対し、従業員の就業環境が害されないよう、雇用管理上必要な措置を講じる義務を課すことです。

したがって、労働局の援助・調停があること、出入り禁止が対処の例に挙げられていること、事業主に措置義務があることは、それぞれ分けて確認する必要があります。

指摘された課題

厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和5年度)は、勤務先がカスハラ対策に「積極的に取り組んでいる」場合の被害経験が12.8%(n=508)、「あまり取り組んでいない」場合は23.1%(n=693)だったとしています。職場の取組状況によって、被害経験の割合に差があることを厚生労働省の資料が示しています。

同じ調査では、顧客等からの著しい迷惑行為について、過去3年間の相談件数が「増加している」とした企業が23.2%、「減少している」とした企業が11.4%でした(n=2,167)。接客頻度別の被害経験は、「勤務日はほぼ毎日接している」が17.4%、「ほとんど接することがない」が5.3%でした(n=8,000)。

企業が被った損害では、「通常業務の遂行への悪影響」が63.4%、「労働者の意欲・エンゲージメントの低下」が61.3%、「労働者の休職・離職」が22.6%でした(n=1,880)。

これらは、厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和5年度)のデータです。労働政策審議会雇用環境・均等分科会(第80回・令和7年1月24日)の参考資料2として示され、令和8年9月14日の検討会資料にも掲載されています。

解釈事項の問7は、カスハラの発生の原因や背景には、商品・サービス・接客等の問題や、顧客等とのコミュニケーションの不足などもあると説明しています。厚生労働省は、接客、商品・サービス、苦情対応の研修や資料の配布など、従業員の対応力を高める取組が望ましいとしています。

また、必要に応じて、過度に顧客等を優先した対応をするような接客等の慣行の見直しなど、職場環境や組織風土を見直すことも考えられるとしています。これは従業員個人への評価ではなく、厚生労働省の資料が職場の取組として示している内容です。

いつから

小売店・飲食店・サービス業の店舗を運営する事業主へのカスハラ防止措置は、令和8年(2026年)10月1日から義務になっています。まだ措置を講じていない事業主は、速やかに対応する必要があります。

同じ令和8年10月1日には、採用面接やインターンシップなどの場面を対象とする求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置も、事業主の義務になりました。2つの義務の全体像は、カスハラ対策と求職者等セクハラ対策が事業主の義務にで整理しています。

職場の準備が見えない場合、従業員本人は、方針と相談担当者、一人勤務時の対処、本社・本部への連絡方法、特に悪質な事案を判断する体制が定められているか確認できます。職場との紛争になった場合は、民間の労働者に適用される都道府県労働局長の援助・調停の仕組みを確認できます。

出典

家族に説明するなら

お店で働く人をお客さんなどからの行きすぎた言動から守るため、2026年10月1日から事業主に対応方針や相談体制などの整備が義務づけられたよ。一人で店番をする場合の退店要請や本部への連絡なども、職場があらかじめ決めておくことが想定されている。職場が対応せず紛争になったとき、民間で働く人は労働局長の援助や調停を使えるんだ。

本記事は公式情報をもとにした要約です。最新かつ正確な情報、申請条件、期限は必ず公式ページでご確認ください。