令和8年(2026年)10月1日から、事業主にはカスタマーハラスメント防止措置が義務づけられます。根拠は、令和7年法律第63号による改正後の労働施策総合推進法第33条です。
この措置は、自治体の窓口などで働く一般職の地方公務員にも適用されます。会計年度任用職員を含め、所属部署や雇用形態を問わず全ての労働者が対象です。
ただし、地方公務員への適用は、法律に直接「第33条を適用する」と書かれているわけではありません。改正法第48条が、同じ一文の中で「国家公務員及び地方公務員」と「一般職の国家公務員」を書き分けていることによる反対解釈です。
その書き分けにより、自治体には措置義務がかかる一方で、民間労働者が使える都道府県労働局長の援助・調停や、厚生労働大臣による助言・指導・勧告などは地方公務員には及びません。自分の職場がまだ何もしていない場合、同じ法律の労働局ルートではなく、地方公務員法の勤務条件に関する措置の要求が確認すべき制度になります。
自治体の職員も対象になるのか
改正後の労働施策総合推進法第48条は、適用除外を次のように規定しています。
(前略)第三十五条から第三十九条まで、第四十二条第一項(第十章の規定の施行に関するものに限る。)及び第二項並びに第四十五条第一項の規定は国家公務員及び地方公務員について、第八章及び第三十一条から第三十四条までの規定は一般職の国家公務員(中略)については、適用しない。
(前略の部分には、第六条から第九条まで、第六章(第二十七条を除く。)、第七章が列挙されています。)
前半では「国家公務員及び地方公務員」を適用除外とする一方、後半の第31条から第34条までについては「一般職の国家公務員」などを挙げ、地方公務員を挙げていません。この書き分けを反対に読むと、一般職の地方公務員には第33条が適用されます。これはあくまで第48条の反対解釈であり、地方公務員への適用が明文で書かれているという意味ではありません。
適用関係を整理すると、次のとおりです。
| 区分 | 第31条〜第34条 | 第35条〜第39条 | 第42条第1項(第10章分)・第2項 | 第45条第1項 |
|---|---|---|---|---|
| 民間労働者 | 適用 | 適用 | 適用 | 適用 |
| 一般職の地方公務員 | 適用(第48条の反対解釈) | 適用しない | 適用しない | 適用しない |
| 一般職の国家公務員 | 適用しない | 適用しない | 適用しない | 適用しない |
第31条から第34条までには、パワハラの措置と責務(第31条・第32条)、カスハラの措置と責務(第33条・第34条)が含まれます。一般職の国家公務員にはこの4条が適用されず、カスハラについては後述する人事院規則10―17が置かれています。
何が義務になるのか
義務を負うのは、窓口で働く職員本人ではなく、地方公共団体(任命権者側)です。第33条第1項から第3項までの内容は次のとおりです。
| 条項 | 地方公共団体(任命権者側)に求められること |
|---|---|
| 第1項 | 顧客等の社会通念上許容される範囲を超えた言動により就業環境が害されないよう、相談に応じる体制、言動を抑止する措置など、雇用管理上必要な措置を講じる |
| 第2項 | 職員が相談したことや、相談への対応に協力して事実を述べたことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをしない |
| 第3項 | 他の事業主から、第1項の措置に必要な協力を求められたときは、これに応ずるよう努める |
令和8年厚生労働省告示第51号のカスハラ防止指針は、第1項の措置を次の5つに整理しています。
| 講ずべき措置 | 内容 | |
|---|---|---|
| ① | 事業主の方針の明確化および周知・啓発 | カスハラに対する方針を定め、職員に知らせる |
| ② | 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 | 相談や苦情を受け、適切に対応できる体制をつくる |
| ③ | 事後の迅速かつ適切な対応 | 発生後、事実関係を確認し、必要な措置を講じる |
| ④ | 対応の実効性を確保するための抑止措置 | 特に悪質と考えられるカスハラへの対処方針をあらかじめ定め、職員への周知と対処できる体制の整備を行う |
| ⑤ | ①〜④と併せて講ずべき措置 | プライバシーを保護し、相談等を理由とする不利益取扱いをしない旨を周知する |
厚生労働省の解釈事項は、対処の例として、可能な限り職員を一人で対応させないこと、必要に応じて管理監督者等が代わって対応すること、説明後も要求が続く場合に一定時間の経過をもって退店を求めたり電話を切ったりすること、犯罪に該当し得る言動を警察へ通報することを挙げています。特に悪質な場合の例には、警告文の発出や施設等への出入りの禁止があります。
これらは、10月1日以降に職員が職場へ確認できる具体的な内容です。方針だけを掲げれば足りるのではなく、相談、事後対応、抑止のための体制までが措置に含まれます。
会計年度任用職員も対象になる
厚生労働省の「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」問9は、カスハラ防止指針の「労働者」が事業主が雇用する労働者の全てを指すと説明しています。方針の周知・啓発は、所属部署や雇用形態を問わず、全ての労働者に行う必要があります。
したがって、正規職員だけが対象になるわけではありません。自治体で働く会計年度任用職員も雇用形態を理由に外すことはできず、窓口を担う非常勤職員も措置の対象です。また、顧客対応が発生しない部署でも、「顧客等」には取引の相手方や施設の利用者などが含まれるため、措置を講じる必要があるとされています。
住民からの言動は「顧客等」に当たるのか
第33条第1項の「顧客等」は、顧客に限られません。条文は、「顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者」と定めています。自治体の窓口や施設を利用する住民なども、この範囲に入り得ます。
さらに、解釈事項の問2は、今後顧客になることが想定されるかどうかを問わず、施設の近隣住民からの言動も対象になり得るとしています。
ただし、住民からの意見や苦情の全てがカスハラになるわけではありません。次の3要素を全て満たす必要があります。
- 顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の事業に関係を有する者の言動であること
- 職員が従事する業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えた言動であること
- その言動により、職員の就業環境が害されること
第34条第5項は顧客等に対し、問題への関心と理解を深め、労働者の就業環境を害さないよう必要な注意を払う努力義務を定めています。
職場が何もしていないとき、職員には何が使えるのか
民間労働者と地方公務員では、使える外部の仕組みが異なります。
民間では、第33条の措置や不利益取扱いをめぐって労働者と事業主の間に紛争が生じた場合、第36条により、当事者の双方または一方が都道府県労働局長に解決の援助を求めることができます。労働局長は助言、指導または勧告を行うことができ、第37条から第39条までには調停の仕組みがあります。
しかし、地方公務員には第48条により、第35条から第39条までが適用されません。さらに、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律も、第22条本文で国家公務員と地方公務員を適用除外としています。そのため、本庁の一般職の窓口職員は、民間と同じ労働局の援助・調停ルートを使えません。
履行確保の仕組みも異なります。地方公務員には次の規定が適用されません。
- 第42条第1項のうち第10章分 — 厚生労働大臣による事業主への助言、指導または勧告
- 第42条第2項 — 第33条第1項・第2項などに違反し、勧告に従わなかった事業主の公表
- 第45条第1項 — 厚生労働大臣による事業主への報告の請求
つまり、自治体には第33条の義務がかかりますが、職員が職場の未対応を労働局に持ち込み、第36条の援助や調停を求めたり、厚生労働大臣から自治体への勧告等につなげたりする仕組みではありません。
地方公務員側にあるのが、地方公務員法第46条の勤務条件に関する措置の要求です。職員は、給与、勤務時間その他の勤務条件について、地方公共団体の当局が適当な措置を執るよう、人事委員会または公平委員会に要求できます。
要求があったときは、第47条により、人事委員会または公平委員会が口頭審理その他の方法で審査し、事案を判定します。その結果に基づき、権限に属する事項は自ら実行し、それ以外の事項は権限を持つ地方公共団体の機関に対して必要な勧告を行います。
なお、カスハラ防止措置の未整備がこの「勤務条件」に当たるかどうかを直接示した国の資料は、本稿執筆時点では確認できていません。措置要求は勤務条件全般を対象とする一般的な制度であり、カスハラ対策のために設けられたものではない点に留意してください。実際に要求できるかどうかは、勤務先の人事委員会または公平委員会の規則(地方公務員法第48条により、要求や審査の手続は人事委員会規則・公平委員会規則で定められます)を確認する必要があります。
ただし、個別労働関係紛争解決促進法第22条には例外があります。本庁の一般職の窓口職員との分かれ目は次のとおりです。
| 職員区分 | 個別労働関係紛争解決制度 |
|---|---|
| 本庁の一般職の窓口職員 | 第22条本文により適用除外 |
| 地方公営企業法第15条第1項の企業職員 | 第22条ただし書により適用除外の対象外 |
| 一定の単純労務職員 | 第22条ただし書により適用除外の対象外 |
公営企業として運営される病院・水道・交通などの企業職員や、同条ただし書に該当する単純労務職員は、労働局の個別紛争解決ルートを使えます。同じただし書は、地方独立行政法人法第47条の職員も挙げています。自分がどの職員区分に当たるかで、利用できる制度が変わります。
国の窓口ではどうなるのか
一般職の国家公務員には、労働施策総合推進法第31条から第34条までが適用されません。国の窓口では、別の仕組みとして人事院規則10―17(カスタマー・ハラスメントの防止等)が設けられています。
この規則は令和8年4月15日公布、令和8年10月1日施行です。同じ令和8年4月15日付で、運用通知職職―114「人事院規則10―17(カスタマー・ハラスメントの防止等)の運用について」が出され、別紙第1に職員が認識すべき事項、別紙第2に相談員が留意すべき事項の指針が置かれています。
法律第33条が「就業環境が害される」言動を対象にするのに対し、人事院規則第2条は、職員が精神的・身体的な苦痛を与えられる場合に加え、「職員の人格若しくは尊厳が害され」、または勤務環境が害される場合を定義に含めています。この点で、人事院規則の定義は法律より射程が広くなっています。
また、第8条第3項により、職員は相談員だけでなく、人事院に直接苦情相談を行うことができます。人事院は事情の聴取など必要な調査を行い、職員等に対して指導、助言、必要なあっせん等を行います。
一方、第5条第1項は、職員自身も行政サービスの利用者等として、その職務でカスハラを生じさせる言動をしてはならないと定めています。
誤解しやすいところ
まず、労働局が個別の言動について「カスハラに当たる」と判定する仕組みではありません。厚生労働省の解釈事項の問6は、都道府県労働局は、具体的に発生した個々の言動がカスハラに当たるかどうかの判断を行わないと説明しています。事実関係を迅速かつ正確に確認し、該当性を含めて確認したうえで必要な措置を講じるのは、事業主の義務です。地方公務員については、これに加えて、前述のとおり労働局の援助・調停ルート自体が適用除外です。
次に、改正法は、行為者への新たな法的権利や権限を事業主に与えるものではありません。問18は、何らかの措置を行う法的な権利や権限を新設したものではなく、具体的な対処は各事業主が実態に応じて定める必要があると説明しています。
したがって、今回の改正は、カスハラ行為そのものを一律に禁止して行為者を処罰する制度ではなく、地方公共団体を含む事業主に、職員の就業環境を守るための雇用管理上の措置を義務づけるものです。
指摘された課題
総務省は令和7年4月、「地方公共団体における各種ハラスメントに関する職員アンケート調査」の結果を公表しました。調査対象は、無作為抽出した388の都道府県・市区町村の一般行政部門(首長部局)に属する一般職の職員20,000人で、常勤14,191人、会計年度任用職員を含む非常勤5,809人です。調査は令和6年11月26日から12月16日に行われ、有効回収数は11,507件、有効回収率は57.5%でした。
過去3年間にカスハラを受けた、または受けたと感じた経験がある職員は、全体の35.0%でした。同じ設問による厚生労働省の令和5年度民間調査は10.8%です。
団体区分別では都道府県より市区町村、年代別では30代、任用形態別では任期の定めのない常勤職員(非管理職・その他)で、受けた割合がそれぞれ高い結果でした。経験がある4,031人について、きっかけとなった理由は「行政サービスの利用者・取引先の不満のはけ口・嫌がらせ」が72.5%、「職員の対応が一因」が17.5%でした。
カスハラを受けた割合が高い部門の上位5つは、高い順に次のとおりです。
- 広報広聴
- 各種年金保険関係
- 福祉事務所
- 戸籍等窓口
- 税務
一方、報告書は、クレームの全てがカスハラに当たるわけではなく、客観的に見て社会通念上相当な範囲で行われたものは正当なクレームであり、カスハラに該当しないことへの留意も求めています。
総務省はこの調査結果を踏まえ、令和7年4月25日付・総行女第20号「地方公共団体における各種ハラスメントに関する職員アンケート調査結果等を踏まえた各種ハラスメント対策の効果的かつ積極的な取組について」を通知しています。
総務省の該当ページに掲載されている通知は、この総行女第20号が最新です。令和8年10月1日の義務化を受けた通知は、本稿執筆時点の令和8年(2026年)9月17日には掲載されていません。
いつから
カスタマーハラスメント防止措置の義務化は、令和8年(2026年)10月1日からです。同じ日に、人事院規則10―17も施行されました。
出典
- 令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について(厚生労働省)
- ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について(厚生労働省・令和8年4月24日・PDF)
- 地方公共団体における各種ハラスメントに関する職員アンケート調査結果/取組事例集/通知(総務省)
- 地方公共団体における各種ハラスメントに関する職員アンケート調査 結果のポイント(総務省・PDF)
- カスタマー・ハラスメント(人事院)
- 人事院規則10―17(カスタマー・ハラスメントの防止等)
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号。令和7年法律第63号による改正後)
- 事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)
- 個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成13年法律第112号)
- 地方公務員法(昭和25年法律第261号)
- 人事院規則10―17(カスタマー・ハラスメントの防止等)の運用について(令和8年4月15日・職職―114)