予防接種の同意は「文書」でなくてもよくなりました 令和8年(2026年)9月1日公布・施行 医師が口頭で確認し電磁的記録に残す(令和8年厚生労働省令第136号)

何が起きたか

予防接種実施規則の一部を改正する省令(令和8年厚生労働省令第136号)が、令和8年(2026年)9月1日に公布されました(官報 本紙第1780号)。根拠は予防接種法(昭和23年法律第68号)第11条で、厚生労働大臣・上野賢一郎の名で公布されています。

附則は1文だけです。

この省令は、公布の日から施行する。

そのため、公布と同じ9月1日から施行されています。

改正されたのは、予防接種実施規則(昭和33年厚生省令第27号)第5条の2(説明と同意の取得)の第1項だけです。第2項は改正されていません。

条文はこう変わった

官報の新旧対照表は次のとおりです。

改正前

第五条の二 予防接種を行うに当たつては、あらかじめ被接種者又はその保護者に対して、予防接種の有効性及び安全性並びに副反応について当該者の理解を得るよう、適切な説明を行い、文書により同意を得なければならない。

改正後

第五条の二 予防接種を行うに当たつては、あらかじめ被接種者又はその保護者に対して、予防接種の有効性及び安全性並びに副反応について当該者の理解を得るよう、適切な説明を行い、同意を得なければならない。この場合において、予防接種を行う者は、被接種者又はその保護者による同意の有無を電磁的記録(電磁的方式(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式をいう。)で作られる記録をいう。)として記録しなければならない。ただし、被接種者又はその保護者が書面により同意の有無を示したときは、この限りでない。

変更点を整理すると3つです。

  1. 「文書により」が削られた。同意そのものを得る義務は残り、その方法が「文書により」に限定されなくなりました
  2. 記録義務が加わった。予防接種を行う者は、同意の有無を電磁的記録として記録しなければなりません
  3. ただし書きが置かれた。被接種者または保護者が書面で同意の有無を示したときは、電磁的記録として記録する義務はかかりません

説明義務は変わっていません。 有効性・安全性・副反応について、理解を得るよう適切な説明を行うことは、これまでどおり必要です。

なぜ変わったのか——デジタル予診票への対応

厚生労働省は意見公募の結果(令和8年9月1日公表)で、この改正の位置づけを繰り返し説明しています。

今般の改正は、デジタル予診票の運用に即した規定を整備するものであり、医師の説明・診察の後に被接種者又はその保護者が接種実施の可否を判断し、その結果を医師が予診情報・予防接種記録管理/請求支払システム(以下「予予・請求システム」という。)に記録するという手続を明確化するものです。

つまり、住民がマイナポータルから事前にデジタル予診票を入力し、医療機関ではオンライン資格確認で本人確認をしたうえで、同意の有無は口頭で取得し、それを医師がシステムに記録する——という流れを、条文上はっきりさせたものです。

9月1日から現場の運用が一斉に変わるわけではありません。 厚生労働省は次のように答えています。

今般の改正は、予防接種のデジタル化に伴い接種同意の取得方法について書面のみでなく口頭でも行えることを改めて明確化する趣旨のものであり、この省令の施行をもって運用を変えていただくものではございません。

書面での同意はどうなるか

書面という選択肢はなくなりません。改正後の条文のただし書きがそれにあたります。厚生労働省も、

予防接種事務のデジタル化以後も、被接種者又はその保護者が書面により同意の有無を示すことは可能であり、この場合においては、デジタル化に伴う運用を適用しないこととする旨を規定しております。

と回答しています。書面で示したい場合は、医療機関にその旨を伝えてください。

また、システム障害や通信障害が起きた場合には書面による運用に切り替えることとされています。

子どもの接種はどう扱われるか

意見公募では、保護者の同意の真正性をどう担保するのかという質問が多く出ました。厚生労働省の回答は次のとおりです。

場面取扱い
13歳未満接種時に保護者が同伴する必要があるため、その同伴をもってデジタル予診票に入力された保護者氏名の真正性を担保する
13歳以上16歳未満で保護者が同伴しないあらかじめ保護者が署名した紙の予診票の持参が必要。デジタル化以後もこの持参により保護者の同意の真正性を担保する
16歳未満のマイナポータル利用保護者のみが知り得る暗証番号により、子どものマイナンバーカードを用いてログインできる仕様
本人の意思決定能力に疑義がある場合「定期接種実施要領」に基づき、家族やかかりつけ医の協力を得て意思を確認することも差し支えないが、明確に意思を確認できない場合は接種してはならない

記録はどこに残るか

厚生労働省は、記録の所在と保存についてこう整理しています。

  • 同意に関する記録を含む接種記録は、予予・請求システムに登録され、そこに保存される
  • 医療機関等は、予予・請求システムに保存された接種同意に関する記録を診療録の一部としてみなすことが可能
  • 医師法施行規則(昭和23年厚生省令第47号)第23条に規定する診療録の記載事項を含む予診情報・接種記録を登録することをもって、診療録の作成・保存がなされていると解すことが可能
  • 記録は、予防接種の実施主体である市町村において、予防接種法施行規則第4条第1項に規定する期間、保存される
  • 予予・請求システムの記録は予防接種法に基づく接種記録、電子カルテ等の記録は医療法に基づく記録であり、いずれか一方が他方に優先する関係にはない
  • 登録・修正・削除の操作ログ(誰がいつ行ったか、修正前の情報)が残る
  • 医師の指示および管理のもとでの代理入力は認められている

指摘された課題

意見公募(パブリックコメント)は令和8年7月18日から8月16日まで行われ、36件の意見が提出されました。このうち27件が本件に関する意見で、残り9件は意見募集に関係しないものと整理されています。提出意見を踏まえた案の修正はありません。

最も多かったのは、口頭同意にすることで証拠が残らなくなるのではないかという懸念です。

デジタル化の趣旨には賛同しますが、同意の有無を口頭確認のみで医師がシステム登録する運用では、後からの「言った・言わない」の紛争や、医師の入力ミスによるトラブルが懸念されます。

この口頭確認が形骸化してしまう(例:医師が、明確な口頭確認を省略して、システム登録ボタンを押してしまう。)おそれはないのか。このおそれが完全に払拭されない場合、健康被害等が生じた際に「(医師としては)口頭確認をした/(被接種者としては)口頭確認を受けていない」の争いが当然予見されるが、如何か。

これに対する厚生労働省の考え方は、「今般の改正に伴い、医師は同意の内容を適切に記録しなければならないところであり、医師が異なる内容を記録することは想定しておりません」というものです。

署名が持っている法的・証拠的な機能をどう代替するのかを、体系的に問う意見も出ています。

予防接種の同意は、単なる申請者氏名の入力やチェック欄ではなく、身体侵襲を伴う医療行為への同意である。……紙の予診票における被接種者又は保護者署名を電子化する場合、電子署名で代替するのか、本人確認済み認証、操作ログ及び確定操作により代替するのかを明確に示されたい。

厚生労働省は、接種同意の有無はオンライン資格確認で本人確認を行ったうえで口頭で取得するという運用を示すにとどめ、電子署名の導入には踏み込んでいません。被接種者側がその場で確認・承認する仕組み(確認画面の保存、電子サイン、確認用レシートなど)を求める意見に対しては、「現時点ではご指摘の機能は備えておりません。今後、その必要性も含めて検討してまいります」と回答しています。

このほか、次のような指摘がありました。

  • 他の医療行為への波及——予防接種で署名相当の電子的措置を軽減できるなら、医療行為全般にも同様の取扱いが可能との理解を生じさせかねない(回答:「今般の改正は予防接種におけるデジタル予診票の運用に対応するものであり、他の制度について想定するものではありません」)
  • 二重管理——書面同意を「適用外」とすると、医療現場でデジタルと紙の二重管理が発生する。書面同意の場合もシステムにフラグを立てる、スキャンして添付するなどの一元管理を(回答:「ご意見として承ります」)
  • 個人情報保護——予診情報と接種記録は極めて重要な個人情報であり、不正アクセス対策・アクセス権限管理・ログ管理・漏えい時の対応を分かりやすく公表してほしい。とくに子宮頸がん予防接種は対象者が主に未成年である(回答:「ご意見として承り、適切に対応してまいります」)
  • 成果目標・KPIが示されていない——接種の実施率、記録の誤記・修正件数、事務時間の短縮率などのKPIがなければ改善度を判断できない(回答:「ご指摘いただいたEBPMや行政事業レビューの趣旨等も踏まえて、今後とも適切な成果目標等の設定に努めてまいります」)
  • タスク・シフト——説明の補助やシステム入力を看護師・医療事務スタッフが行えることを明示してほしい(回答:令和3年9月30日付け医政発0930第16号の局長通知を参照するよう案内)

注意点

  • 予診票そのものがなくなるわけではありません。 改正されたのは同意の取得方法に関する規定で、予診の実施や予診票の様式が廃止されたわけではありません
  • 9月1日を境に全国の医療機関の運用が変わるわけではありません。 予防接種事務のデジタル化の進み方は自治体・医療機関によって異なります。当面は紙の予診票への署名が続く場面が多いと考えられます
  • 副反応の説明を省略してよいという改正ではありません。 説明義務は改正前後で変わっていません
  • 記録の様式や運用の詳細は、省令ではなく通知・システム仕様で定まります。 医療機関は、今後出される周知文書を確認してください

公式リンク

根拠

  • 予防接種実施規則の一部を改正する省令(令和8年厚生労働省令第136号・令和8年9月1日公布/官報本紙第1780号)
  • 予防接種実施規則(昭和33年厚生省令第27号)第5条の2
  • 予防接種法(昭和23年法律第68号)第11条
  • 予防接種実施規則の一部を改正する省令案に関する意見募集の結果について(令和8年9月1日・厚生労働省健康・生活衛生局感染症対策部予防接種課)

家族に説明するなら

予防接種を受けるときは、いつも「予診票」という紙にサインをしていたよね。あれは「説明を聞いて納得したので受けます」という同意のしるしなんだ。2026年9月1日から、この同意のしかたのルールが変わったよ。これまでは決まりで「文書で(=紙に書いて)同意をもらいなさい」となっていたけれど、そこが「同意をもらいなさい」に変わって、紙でなくてもよくなったんだ。そのかわり、お医者さんが口で「受けますか」と確かめて、その結果をパソコンのシステムに記録することになる。紙に書いて同意を示したいときは、これまでどおり紙でも大丈夫。マイナポータルから事前に予診票をデジタルで入力するしくみ(デジタル予診票)に合わせた変更で、9月1日からすぐに全部が変わるわけではないよ。

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