令和8年(2026年)8月12日、厚生労働省は「抗菌性物質製剤に係る安定供給確保を図るための取組方針」を改定しました。セフトリアキソンナトリウム水和物が、新たに施策の対象となる成分に追加されます。
どういう制度か
根拠は、経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(経済安全保障推進法・令和4年法律第43号)第8条第1項です。国民の生存に必要不可欠な物資などを「特定重要物資」に指定し、その安定供給確保を図るための取組方針を主務大臣が定めるしくみです。
抗菌性物質製剤(抗菌薬)は、この特定重要物資に指定されています。日本で使われる注射用の抗菌薬は原薬の多くを海外に依存しており、輸入が止まると医療現場で薬が足りなくなるおそれがあるためです。
2019年にはセファゾリンの供給不足が起き、医療現場に大きな混乱をもたらしました。
何が追加されたのか
今回追加されたのはセフトリアキソンナトリウム水和物です。厚生労働省は、この成分が供給確保医薬品A群に指定されていること、およびサプライチェーン調査の結果、その供給が特定国に依存していることが明らかになったことなどを踏まえて追加したとしています。
すでに対象となっているβラクタム系抗菌薬の4成分は次のとおりです。
- アンピシリンナトリウム/スルバクタム
- タゾバクタム/ピペラシリン
- セファゾリン
- セフメタゾール
2027年からの製造設備・備蓄設備の構築支援を通じて安定供給体制を整備する方針が示されています。
なお厚生労働省は、この取組方針について「取組方針に基づき国内製造された原材料等について、販売先を指定等するものではありません」としています。
意見募集の経過
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 意見募集の期間 | 令和8年6月30日〜7月30日 |
| 提出意見数 | 11件 |
| 案の修正 | 無 |
| 結果の公示日・策定日 | 令和8年8月12日 |
| 所管 | 厚生労働省医政局医薬産業振興・医療情報企画課 |
指摘された課題
意見募集では、改定に賛同する意見とあわせて、次のような指摘がありました。
メロペネムとバンコマイシンも対象にすべき 複数の意見が、メロペネムおよびバンコマイシンについても特定重要物資への指定と取組方針の対象への追加を求めました。理由として挙げられたのは次の点です。
- 両薬剤は、今回追加されたセフトリアキソンや既指定のβラクタム系4成分と同じ「カテゴリA」(安定確保医薬品/供給確保医薬品A群)に分類されており、医療上の必要性で優劣はない
- メロペネムは出発原料の100%、最終原薬の約90%を海外に依存しており、国内唯一の製造設備は老朽化が進んでいる。バンコマイシンは出発原料・最終原薬とも100%を海外(中国、ハンガリーの2社)に依存している
- メロペネムはカルバペネム系抗菌薬の数量シェア約9割、バンコマイシンは抗MRSA薬の数量シェア約8割を占め、供給が途絶した場合に同系統の他剤で代替することは事実上不可能。影響は2019年のセファゾリン問題を上回りかねない
- 日本感染症学会・日本化学療法学会・日本環境感染学会・日本臨床微生物学会の関連4学会が、2025年6月23日付で厚生労働大臣宛てに「抗菌性物質製剤(メロペネム及びバンコマイシン)の原薬国産化による安定供給体制確立の要望書」を提出済み
今回の改定はセフトリアキソンの追加にとどまっており、意見提出者からは次期改定において速やかに指定手続きを進めるよう重ねて要望が出されました。
薬価との関係(作っても売れなければ続かない) 「安定的に供給するためには、安定的にそれら製造された抗菌薬やその原薬が、売れていく事も必要です」という指摘が出されました。特定重要物資に指定されるような抗菌薬は発売から年数が経ち、毎年の薬価改定で価格が低下して採算ぎりぎりの状態であり、中国製の安い原薬を使ってもぎりぎりであること、国内の新設備で作った原薬が価格競争力を持てるのかという疑問が示されました。安定的な販売を可能にするための薬価の引上げを含めた総合的な「手当て」が必要という意見です。
別の意見も同趣旨で、国産原薬は輸入原薬より製造コストが高くなる可能性が高く、市場原理のみに委ねた場合には価格競争力の観点から海外原薬への依存が継続し、国内生産基盤の維持が困難となることが予想されるとして、設備整備だけでなく平時から設備が稼働し得る事業環境の整備を求めました。
厚生労働省は、これらについて「本改正案に係る事項以外の御意見につきましては、今後、医薬品の安定供給施策を推進するにあたって、御参考とさせていただきます」と回答しています。
支援の対象が不明確 「国産原料」の具体的な範囲、国内生産設備の整備に係る支援対象について日本資本企業を基本とする考え方なのか外国資本企業も含まれるのか、既存設備の活用か新拠点の整備か、支援対象事業者の要件と選定方針を示してほしいという意見も出されました。