何が起きたか
令和8年(2026年)8月31日の官報(号外第193号)に、令和8年厚生労働省告示第332号が掲載されました。告示の書き出しは次のとおりです。
労働安全衛生規則(昭和四十七年労働省令第三十二号)第五百七十七条の二第二項の規定に基づき、労働安全衛生規則第五百七十七条の二第二項の規定に基づき厚生労働大臣が定める物及び厚生労働大臣が定める濃度の基準(令和五年厚生労働省告示第百七十七号)の一部を次の表のように改正し、令和九年十月一日から適用する。
つまり、公布は令和8年8月31日、適用は令和9年(2027年)10月1日です。1年1か月あまりの準備期間が置かれています。
同じ日付で、化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針(令和5年4月27日技術上の指針公示第24号)も改正されました(令和8年8月31日技術上の指針公示第29号)。指針の冒頭には、この改正のうち二重下線部については令和9年10月1日適用と注記されています。
「濃度基準値」とは何か
労働安全衛生規則第577条の2第2項は、厚生労働大臣が濃度の基準を定めた物質について、それを製造・取り扱う屋内作業場では、その業務に従事する労働者がばく露される程度を濃度基準値以下としなければならないと定めています。
技術上の指針は、この義務の中身を次のように整理しています。
- 八時間濃度基準値——1日の労働時間のうち8時間のばく露における濃度を、各測定の測定時間で加重平均した値(八時間時間加重平均値)が超えてはならない基準
- 短時間濃度基準値——1日の労働時間のうち濃度が最も高くなると思われる15分間のばく露における濃度を加重平均した値(十五分間時間加重平均値)が超えてはならない基準
さらに、努力義務として次のことが求められます。
- 八時間・短時間の両方が定められている物質で、十五分間時間加重平均値が八時間濃度基準値を超え短時間濃度基準値以下の場合は、そのばく露を1日4回まで、間隔を1時間以上とすること
- 八時間濃度基準値だけが定められている物質で、十五分間時間加重平均値が八時間濃度基準値を超える場合は、八時間濃度基準値の3倍を超えないようにすること
- 短時間濃度基準値が天井値として定められている物質は、いかなる短時間のばく露でもその値を超えないようにすること
- 有害性の種類と影響を及ぼす臓器が同じ物質を2種類以上含む混合物は、各物質の八時間時間加重平均値÷八時間濃度基準値の合計が1を超えないようにすること
なお、特別規則(有機則・鉛則・四アルキル鉛則・特化則)の適用がある物質には、二重規制を避けるため濃度基準値は設定されていません。また、ヒトに対する発がん性が明確な物質には、安全な閾値としての濃度基準値を設定することが困難であるため値が設定されず、代わりにばく露を最小限度とする義務がかかります。
新たに濃度基準値が設定される主な物質
官報の新旧対照表で「新設」とされている行のうち、技術上の指針の別表2で値を確認できたものは次のとおりです。この表は網羅ではありません。 銅の化合物のように、対象とする化合物の限定の仕方ごとに複数の行に分かれるものがあります。正確な範囲は告示本文で確認してください。
| 物の種類 | 八時間濃度基準値 | 短時間濃度基準値 |
|---|---|---|
| アジ化水素 | - | 0.1 ppm |
| アジ化ナトリウム | 0.2 mg/㎥ | - |
| アセトフェノン | 4 ppm | - |
| アゾジカルボンアミド | 0.02 mg/㎥ | - |
| 4-アミノ-6-ターシャリ-ブチル-3-メチルチオ-1,2,4-トリアジン-5(4H)-オン(別名メトリブジン) | 1 mg/㎥ | - |
| アルファ-ピネン | 5 ppm | - |
| 塩化亜鉛 | - | 4 mg/㎥ ※ |
| N-エチルモルホリン | 3 ppm | - |
| クロロアセトアルデヒド | 0.3 ppm | 1 ppm |
| 1-クロロ-1,1-ジフルオロエタン(別名HCFC-142b) | 1,000 ppm | - |
| クロロメタン(別名塩化メチル) | 10 ppm | - |
| シアン化亜鉛(Ⅱ) | シアンとして 1.5 mg/㎥ | - |
| ジクロロ酢酸 | 0.15 ppm | - |
| 臭化エチル | 5 ppm | - |
| シラン | 30 ppm | - |
| 水酸化カリウム | 1 mg/㎥ | 2 mg/㎥ ※ |
| 水酸化ナトリウム | 1 mg/㎥ | 2 mg/㎥ ※ |
| 硝酸亜鉛(Ⅱ)及びその六水和物 | 亜鉛として 2.5 mg/㎥ | - |
| ストリキニーネ | 0.15 mg/㎥ | - |
| ターシャリ-ブチルアミン | 3 ppm | - |
| ターシャリ-ブチル=ヒドロペルオキシド | 0.5 ppm | - |
| 炭化けい素(炭化けい素ウィスカーに限る。) | 0.1 繊維/ml | - |
| タングステン | 3 mg/㎥ | - |
| テルル | 0.1 mg/㎥ | - |
| 銅及びその化合物(塩化銅(Ⅱ)、塩化銅(Ⅱ)-水酸化銅(Ⅱ)(1/3)、銅、四塩化銅(Ⅱ)酸二アンモニウム二水和物、四塩化銅(Ⅱ)酸二カリウム二水和物、チオシアン酸銅(Ⅰ)及び弗化銅(Ⅱ)に限る。) | 銅として 0.25 mg/㎥ | - |
| 銅及びその化合物(塩化銅(Ⅰ)に限る。) | 銅として 0.3 mg/㎥ | - |
| 銅及びその化合物(シアン化銅(Ⅰ)及び炭酸銅(Ⅱ)-水酸化銅(Ⅱ)(1/1)に限る。) | 銅として 1 mg/㎥ | - |
| 銅及びその化合物(硫酸銅(Ⅱ)及び硫酸銅(Ⅱ)五水和物に限る。) | 銅として 0.01 mg/㎥ | - |
| 銅及びその化合物並びに弗素及びその水溶性無機化合物(六弗化けい酸銅(Ⅱ)に限る。) | 銅として 0.25 mg/㎥ | - |
| 銅及びその化合物並びに沃素及びその化合物(沃化銅(Ⅰ)に限る。) | 沃素として 0.08 mg/㎥ | - |
| 鉄水溶性塩(硫酸鉄(Ⅱ)七水和物に限る。) | 鉄として 1 mg/㎥ | - |
| 1,1,2,2-テトラブロモエタン | 0.1 ppm | - |
| 1,3,5-トリクロロベンゼン | 0.5 ppm | - |
| 1,3,5-トリス(2,3-エポキシプロピル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン | 0.05 mg/㎥ | - |
| 1-(N-フェニルアミノ)ナフタレン | 1 mg/㎥ | - |
| バリウム | 1 mg/㎥ | - |
| 2-フェニルフェノール | 10 mg/㎥ | - |
| ベンジルアルコール | 2 ppm | - |
| d-リモネン | 3 ppm | - |
| メチルシクロヘキサン | 100 ppm | - |
| メチル-ノルマル-ペンチルケトン | 100 ppm | - |
| メチルプロピルケトン | - | 150 ppm |
| 硫化ジメチル | 10 ppm | - |
| 硫酸亜鉛並びにその一水和物及び七水和物 | 亜鉛として 2.5 mg/㎥ | - |
| りん酸亜鉛 | 亜鉛として 2.5 mg/㎥ | - |
※印を付けた短時間濃度基準値は、技術上の指針の別表2で「※1」が付されているもので、天井値として取り扱われます。いかなる短時間のばく露でもこの値を超えないようにする必要があります。
対象範囲が広がるもの
すでに濃度基準値がある物質でも、対象とする化合物の範囲が広がるものがあります。
弗素及びその水溶性無機化合物は、これまで「弗化亜鉛及び弗化カリウムに限る」でしたが、「弗化亜鉛、弗化カリウム及び六弗化けい酸亜鉛(Ⅱ)に限る」になります。値(弗素として 2.5 mg/㎥)は変わりません。
指摘された課題
告示についての意見公募(パブリックコメント)は令和8年5月26日から6月25日まで行われ、25件の意見が提出されました。このうち17件が本件に関する意見で、残り8件は関係のない意見と整理されています。提出意見を踏まえた案の修正はありません。
意見の多くは、濃度基準値の単位や表記の技術的な整合性を問うものでした。
検討会資料では単位が mg/m3として提案されていたものについて、ppm に単位を換算したものがあるのはなぜか。また、検討会資料では単位が ppm として提案されていたものについて、mg/m3 に単位を換算したものがあるのはなぜか。
厚生労働省は、単位の決め方について明確な基準を示しました。
濃度基準値の単位については、対象物質の飽和蒸気圧等を考慮の上、令和7年度化学物質管理に係る専門家検討会報告書を踏まえて、ばく露しやすい状態を考慮して定めています。具体的には、「飽和蒸気圧濃度/濃度基準値」の値が 10 を超えるものについては ppm、それ以下のものについては mg/m3 を単位としています。
また、検討会資料にあった「(IFV)」(吸入性画分と蒸気の両方を含む)の表記が告示案では削られている理由についても質問が出ました。回答は、「濃度基準値そのものに影響を及ぼすものではなく、他の物質同様告示条文に記載すべきものではないため、本告示においては、一様に記載しないこととしています」というものです。そのうえで、ガスとエアロゾル・ミストの両方の状態で存在し得る物質については、技術上の指針の別表1で「相補捕集(蒸気と粒子の両方の捕集)」が必要と規定されていると説明しています。測定を計画するときに影響する点です。
技術上の指針についての意見公募は令和8年7月10日から8月10日まで行われ、4件の意見が提出されました。こちらも案の修正はありません。
注意点
- 適用日は公布日ではありません。 告示の公布は令和8年8月31日ですが、義務がかかるのは令和9年10月1日からです。逆に、令和9年10月1日を過ぎれば、準備の有無にかかわらず義務がかかります
- 本記事の一覧は網羅ではありません。 官報の新旧対照表から確認できたものを掲載しています。自社で使用している物質が対象かどうかは、告示本文または技術上の指針の別表2で必ず確認してください
- 単位に注意してください。 同じ「亜鉛の化合物」でも、値が「亜鉛として」「シアンとして」「銅として」「沃素として」など、換算の基準となる元素が指定されているものがあります
- 濃度基準値がない物質にも義務があります。 リスクアセスメント対象物については、濃度基準値の有無にかかわらず、労働者がばく露される程度を最小限度とする義務(安衛則第577条の2第1項)がかかります
- 技術上の指針は、令和8年10月1日適用の部分(前回の公示第28号の下線部)と令和9年10月1日適用の部分(今回の公示第29号の二重下線部)が混在しています。 指針を参照するときは、どちらの適用時期の記載かを確認してください
公式リンク
- 「労働安全衛生規則第五百七十七条の二第二項の規定に基づき厚生労働大臣が定める物及び厚生労働大臣が定める濃度の基準の一部を改正する件(案)」に関する意見募集の結果について(e-Govパブリック・コメント)
- 「化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針の一部を改正する件(案)」に関する意見募集の結果について(e-Govパブリック・コメント)
- 「化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針」について(公示)(厚生労働省)
- 化学物質による労働災害防止のための新たな規制について(厚生労働省)
- 化学物質:濃度基準値等(職場のあんぜんサイト)
- 令和8年8月31日付 官報 号外第193号(インターネット版官報)
- 労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)
根拠
- 労働安全衛生規則第五百七十七条の二第二項の規定に基づき厚生労働大臣が定める物及び厚生労働大臣が定める濃度の基準の一部を改正する件(令和8年厚生労働省告示第332号・令和8年8月31日公布/官報号外第193号)
- 労働安全衛生規則第五百七十七条の二第二項の規定に基づき厚生労働大臣が定める物及び厚生労働大臣が定める濃度の基準(令和5年厚生労働省告示第177号)
- 化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針(令和5年4月27日技術上の指針公示第24号/令和8年8月31日技術上の指針公示第29号改正)
- 労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第577条の2
- 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第28条第1項