くらし・税金 重要度: 中

個人が「特定投資家」になれる要件が緩和されました 取引頻度は「1か月に4件以上」から「1年に1件以上」へ 令和8年8月3日公布・施行(令和8年内閣府令第66号)

令和8年(2026年)8月3日、「金融商品取引業等に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(令和8年内閣府令第66号)が公布・施行されました(官報本紙第1760号)。

個人が自ら申し出て特定投資家として取り扱ってもらうための要件を緩めるものです。金融商品取引法第34条の4第1項第2号と第63条の8第2項第1号に基づく改正で、公布と同じ日から施行されています。

特定投資家とは

金融商品取引法は、投資家を「特定投資家」(いわゆるプロ投資家)と「一般投資家」に分けています。特定投資家に移行すると、金融商品取引業者に課される投資家保護のための行為規制の一部が適用されなくなります。その代わり、一般投資家には勧誘できない商品の提供を受けやすくなります。

一定の要件を満たす個人は、自ら申し出て特定投資家として取り扱ってもらうことができます。今回変わるのは、その移行の要件です。

何が変わるか

金融庁は、意見募集の回答で改正の内容を次のように説明しています。

本改正は特定投資家の移行要件のうち、平均取引頻度の要件に関して、現行の「一月当たり四件以上」を「一年当たり一件以上」に見直すものです。

1か月あたり平均4件以上の取引が必要だったものが、1年あたり1件以上でよくなります。 単純に比べると、求められる取引の回数は48分の1です。

なぜ緩和するのか

金融庁は、令和7年9月に公表された日本証券業協会・金融庁共催「スタートアップ企業等への成長資金供給等に関する懇談会」の報告書で、スタートアップ企業等への資金供給の促進策として特定投資家の移行要件を緩和することが提言されたことを踏まえた改正だとしています。「特定投資家による投資の活性化を図る観点から」という位置づけです。

Q&Aの改訂で「特定の知識経験を有する者」の範囲が具体化

金融庁は同じ8月3日に「金融商品取引業等に関するQ&A」の問4を改訂し、「特定の知識経験を有する者」である個人として特定投資家になれる場合を明確化しました。

まず前提として、「特定の知識経験を有する者」である個人(適格機関投資家を除く)は、純資産1億円以上・投資性金融資産1億円以上・年収1千万円以上のいずれかに該当し、かつ最初の金融商品取引契約の締結日から1年以上経過している場合に申し出ることができます(金商法第34条の4第1項第2号、金融商品取引業等に関する内閣府令第62条第1項第4号・第3項)。

そのうえで「特定の知識経験を有する者」とは、次のいずれかに該当する者です((ア)〜(ウ)は実務従事期間が通算1年以上である者に限ります)。

  • (ア)金融商品取引業、銀行業、保険業、信託業その他の金融業に係る業務に従事した者
  • (イ)経済学または経営学に属する科目の教授、准教授その他の教員であった者
  • (ウ)日本証券アナリスト協会認定アナリスト、証券外務員(1種・2種)、1級・2級ファイナンシャル・プランニング技能士、中小企業診断士のいずれかの資格を有し、その実務に従事した者
  • (エ)経営コンサルタント業に係る業務に従事した期間が通算1年以上である者その他の者であって、(ア)〜(ウ)と「同等以上の知識及び経験を有する」もの

改訂されたQ&Aは、(エ)に基本的に該当すると考えられる例を挙げています。実務従事期間が概ね通算1年以上あることが前提です。

  1. 有価証券報告書提出会社(上場会社等)の役員(取締役・監査役・執行役)
  2. 有価証券報告書提出会社の従業者、またはいわゆるスタートアップ企業の役員・従業者として、①会社の経営戦略の作成・新規事業の立上げに関する業務、②資本政策等の企業財務に関する業務のいずれかに中核的な役割を担う者として従事した者
  3. M&Aに関する業務、株式新規上場に関する業務のうち、投資・経営・企業財務に関する専門的知識および技能を必要とする業務に中核的な役割を担う者として従事した者
  4. 認定経営革新等支援機関(個人)、公認会計士、税理士、日本証券アナリスト協会認定資産形成コンサルタントの資格を有する者

さらに、これらに該当しない個人でも、他の非上場会社やベンチャーキャピタル等への投資経験が1年以上ある非上場企業の役員などについては、知識・経験の実態に応じて、申出を受けた業者が「同等以上」と判断することは可能だとしています。

形式を満たせば自動的に特定投資家になれるわけではありません。 金融庁は次のように釘を刺しています。

顧客から申出を受けた金融商品取引業者等は、申出の内容を確認するとともに、上記(ア)〜(エ)を形式的に満たす場合であっても、顧客の知識・経験・財産の状況・投資目的に照らして、当該顧客が特定投資家として取り扱うことがふさわしいか否かを判断するべきである点に留意が必要と考えられます。

指摘された課題

意見募集は令和8年4月10日から5月11日まで行われ、3件のコメントが寄せられました。案の修正はありません。

意見募集の期間そのものが行政手続法に足りていない、という指摘が出ています。

本件意見公募手続の期間は29日17時間であり、行政手続法第39条第3項が定める「30日以上」の原則を満たしていません。つきましては、同条第4項に基づく相当の理由が存在するものである又は相当の理由は存在せず同法の定めを逸するものであるのいずれかを回答願います。

金融庁の回答は次のとおりです。

30日以上を満たすため、令和8年4月30日付で募集期間を令和8年5月11日17時00分までに延長いたしました。

指摘を受けて、募集期間が途中で延長されていたということです。当初の設定が30日にわずかに足りていませんでした。

取引頻度を件数だけで測ることへの疑問も出ています。

「一月当たり四件以上」といった単純な約定件数の基準は、自信過剰バイアスや過剰取引を助長する恐れがあります。この要件は、欧州RISの基準等も参考に、「過去一定期間にわたり複数の異なるアセットクラスに対する分散投資の実績があること」、あるいは「単なる短期売買の反復による無意味な回数稼ぎではないことを、金融商品取引業者が合理的なデータに基づき客観的に確認できること」といった、取引の『質』を担保する文言に修正し、監督指針で厳格に運用すべきです。

この意見は、資産や取引件数ではなく金融知識を客観的に測る「特定投資家適格性試験(仮称)」の新設や、AIを使った継続的・動的な適合性モニタリングの義務づけも提言しました。

金融庁は、取引の質については「特定投資家の要件を形式的に満たす場合であっても、金融商品取引業者等によって、投資家の知識・経験・財産の状況・投資目的に照らして、特定投資家として取り扱うことがふさわしいか否か判断される中で、過去の取引内容についても適切に考慮されるべき」と回答し、要件の文言そのものは変えていません。試験の新設やAI活用の提言についても、一般論の回答にとどまっています。

出典

家族に説明するなら

投資家には「プロ」と「一般の人」の区別があって、プロ扱い(特定投資家)になると、金融機関が説明書類を渡すといった保護のルールの一部が外れる代わりに、一般の人が買えない商品にも手が届くようになるんだ。8月3日から、このプロ扱いを申し出るための条件がゆるくなったよ。これまでは「1か月に平均4件以上の取引」が必要だったのが、「1年に1件以上」でよくなった。スタートアップにお金が回るようにするためだけど、保護のルールが外れる側面もあるから、申し出るかどうかは慎重に考えたほうがいいよ。

本記事は公式情報をもとにした要約です。最新かつ正確な情報、申請条件、期限は必ず公式ページでご確認ください。