令和8年(2026年)8月28日、「保険業法施行規則及び金融サービス仲介業者等に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(令和8年内閣府令第73号)が公布されました(官報号外第192号)。同じ日に「認可特定保険業者等に関する命令の一部を改正する命令」も公布されています。
複数の保険会社の商品を扱う乗合代理店が、お客さんに商品を比較して見せたり、特定の商品をすすめたりするときのルール(比較推奨販売)の見直しです。施行は令和10年(2028年)3月1日で、公布から1年半以上の準備期間が置かれています。
何が変わるか
改正の中心は、保険業法施行規則第227条の2第3項第4号です。乗合代理店が保険を募集するときの情報提供義務を、イ・ロ・ハの3つの場面に分けて定めている規定です。
ハ方式が廃止される
金融庁は、同号ハの廃止について次のように説明しています。
保険業法施行規則第227条の2第3項第4号ハの廃止は、特定の個別事案への対応にとどまらず、顧客の最善の利益を重視する法制度の整備や、金融審議会ワーキング・グループの提言を踏まえ、乗合代理店における比較推奨販売の在り方を見直した結果によるものです。
ハは「顧客の意向に沿わないで保険契約を選別する場面」を想定した規定でした。廃止後について、金融庁ははっきりと線を引いています。
同号ハが廃止された後においては、募集過程全体を通じて顧客の意向に基づいた保険契約の選別が行われる必要があり、顧客の意向に基づかない保険契約の絞り込みは許容されません。
「理由を説明すれば代理店の判断で絞り込んでよいのか」という質問に対しても、許容されないと回答しています。
ロ方式の文言が変わる
同号ロについては、改正案で「顧客の意向に沿って当該二以上の所属保険会社等を有する保険募集人が選別した比較可能な同種の(保険契約)」という形になり、「保険募集人が選別した」という文言が加わりました(改正前の文言にはありません)。
イ方式は比較説明の場面
同号イについて、金融庁は「乗合代理店が取り扱う保険契約の内容と、他の保険契約の内容を比較して説明する場合に、当該比較に係る事項について適切な説明を求めるもの」と説明しています。
何を理由にすすめてはいけないのか
金融庁は、ハの廃止の趣旨を「便宜供与等により代理店の利益のみを優先して特定の保険契約の推奨が行われ、顧客の適切な商品選択の機会が阻害されないよう求める点にある」としています。そのうえで、次のものを基準や理由とすることは不適切な提示・推奨に該当し得るとしています。
- 手数料水準
- 販売目標
- 保険会社からの便宜供与
- 資本・取引関係
- 特定の保険会社の事務に精通していること
- 社内都合、経営方針
- 保険募集人の主観的または属人的な判断に基づく事項
推奨の基準や理由に使う数値・資料についても、「収集期間、対象、件数、集計・評価方法等を明らかにするなど、合理性を適切に判断すべき」とされました。
影響を受ける実務
意見公募には、現にハ方式で募集している代理店から具体的な照会が寄せられています。
- テリトリー制(店舗や地域ごとに扱う保険会社を分ける方式)はハに基づくものだったため、見直しが必要になります
- 専属代理店と乗合代理店が合併して店舗ごとに異なる募集形態が併存している場合、ハの廃止により「全店舗で同号イ又は同号ロの採用又は専属化を迫られる」という指摘が出ています
金融庁は、乗合代理店の体制整備義務は保険業法第294条の3に基づくものであり、保険会社の指導等も踏まえて適切に比較推奨販売が行われることを期待するとしています。また、施行日・適用日を待つことなく、可能な限り速やかに体制整備を行うことが望ましいとも述べています。
なお、「権限明示義務」(保険業法第294条第3項)と「意向把握義務」(同法第294条の2)は今回の改正の対象外で、現時点でも適時・適切に対応する必要がある点に注意が必要です。
なぜ変わるのか
金融庁は、次の2つの報告書での提言を踏まえたものだとしています。
- 令和6年6月25日公表「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」報告書
- 令和6年12月25日公表 金融審議会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」報告書
指摘された課題
意見公募(パブリックコメント)は令和7年12月17日から令和8年1月30日まで行われました。金融庁の公表によれば133先の個人・団体から計759件の意見が寄せられています(e-Govの結果公示では、内閣府令の案件の提出意見数は398件と記載されています)。提出意見を踏まえた案の修正はありません。
金融庁は、コメントを「顧客の最善の利益」「意向がない場合」「指名買い」「意向推定」「比較ツール」「比較可能な同種の保険契約」「推奨商品群」「合理的かつ一定の具体性を有する基準や理由」「情報提供」「共同募集」「共同保険」「更改・継続契約」「団体・団体扱い」「別個登録」「自賠責保険」「体制整備」「証跡保存」「施行時期」などに分類して回答しています。実務からの照会が大量に出た改正であることが分かります。
現場からは、手続の長時間化を懸念する意見が出ています。
実務上、短時間での説明を希望する顧客も多い中で、比較推奨販売に係る手続きが形式的に長時間化すると、顧客の利便性や満足度を損なうおそれがある。そのため、顧客のニーズに応じて、説明内容や対応方法を柔軟に選択できる運用とする仕組みを整備いただきたい。
金融庁は、改正の趣旨は「保険業法に基づく意向把握を前提として、顧客の意向等に照らし適切な商品選択の機会を確保する点にある」とし、「顧客の意向に整合的な形で、当該保険契約を選別・推奨する理由が合理的に説明できること、また、顧客の理解と納得を得られる実効的な募集が行われていることが重要」と回答しています。説明を簡潔にしてよいかどうかについて、明確な線は示されていません。