化学物質を扱う職場で、働く人がその物質をどのくらい吸い込んでいるかを測る個人ばく露測定について、令和8年(2026年)10月1日から、作業環境測定士等が作業環境測定基準に従って行うことが義務になります。
根拠は労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号・令和7年5月14日公布)です。この改正法のうち個人ばく露測定に関する部分の施行日が、令和8年10月1日です。
施行に向けて、実施者の要件などを定める省令が令和8年7月29日に、告示2本が7月31日に公布され、枠組みが揃いました。
個人ばく露測定とは
作業環境測定は、これまで「作業場の空気中にどのくらい有害物質があるか」を場所で測るものが中心でした。これに対して個人ばく露測定は、労働者の身体に試料採取機器を装着して、その人が実際にどのくらいばく露しているかを測る方法です。
化学物質の自律的な管理が進むなかで個人ばく露測定の重要性が高まる一方、測定精度をどう担保するかが課題とされていました。今回の改正は、個人ばく露測定を作業環境測定の一部として位置づけ、有資格者が定められた基準に従って行うこととするものです。
厚生労働省は、改正法の概要で次のように説明しています。
危険有害な化学物質を取り扱う作業場の作業環境において、労働者が有害な因子にばく露する程度を把握するために行う個人ばく露測定について、その精度を担保するため、法律上の位置付けを明確にし、有資格者(作業環境測定士)により実施しなければならないこととする。
化学物質を扱う事業者には、もともとリスクアセスメント(危険性・有害性等の調査)と、その結果に基づくばく露低減措置が義務づけられています。個人ばく露測定は、このリスクアセスメントを行うための手法の一つという位置づけです。
何が変わるのか
改正法により、労働安全衛生法に第65条の3が新設されました。厚生労働省はパブリックコメントの回答で、次のように説明しています。
- 安衛法第65条の3第3項の規定により、事業者の判断によりリスクアセスメントの手法として個人ばく露測定を選択した場合には、作業環境測定士等による実施を義務付けるもの
- リスクアセスメントの手法には個人ばく露測定以外にも様々な手法が存在するため、個人ばく露測定を行うかどうかは事業者により判断される
つまり、個人ばく露測定を行うこと自体が義務になるわけではなく、その手法を選んだ場合の実施者と方法が定められたという位置づけです。
資格が必要になる測定・ならない測定
厚生労働省は、次のように整理しています。
労働者の身体に試料採取機器を装着して行う測定であっても、簡易的又は予備的な測定等、一定の測定精度が求められない測定については、作業環境測定である個人ばく露測定には該当せず、作業環境測定士による測定が義務付けられるものではありません。
パッシブサンプラーのような簡易な測定機器による測定は簡易的な測定にあたり、作業環境測定士の資格は必要ないと説明されています。
誰が実施できるのか
デザイン・サンプリング
公益社団法人日本作業環境測定協会が認定するオキュペイショナルハイジニスト、または国際オキュペイショナルハイジニスト協会(IOHA)の国別認証を受けている海外の機関が認定するオキュペイショナルハイジニスト・インダストリアルハイジニスト等は、個人ばく露測定に係るデザイン及びサンプリングに限り実施することができる第二種作業環境測定士として、作業環境測定法施行規則に位置づけられます。
この資格のみをもって第二種作業環境測定士となる者は、デザイン及びサンプリング以外は実施できません。
分析
リスクアセスメントにおいてリスク見積もりのために行う個人ばく露測定で分析を行えるのは、次のとおりです。
| 場合 | 分析を行える者 |
|---|---|
| 分析の方法が作業環境測定士講習の内容に含まれる場合 | 当該区分の登録を受けた第一種作業環境測定士 |
| 第一種作業環境測定士が適切に選定した分析の方法が講習の内容に含まれない場合 | 当該分析に必要な機器を有し、かつ適切に分析できる能力を有する第一種作業環境測定士 |
また、一級化学分析技能士の試験科目に含まれる分析方法により自社で採取された試料の分析を行う場合には、自社に所属する一級化学分析技能士が、第一種作業環境測定士が分析ごとに指定する分析方法により、当該作業環境測定士が行う分析の業務を補助することができるとされています。
公布された省令・告示
| 名称 | 番号 | 公布日 |
|---|---|---|
| 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備等に関する省令 | 令和8年厚生労働省令第116号 | 令和8年7月29日 |
| 作業環境測定法施行規則第5条の2の2の規定に基づき厚生労働大臣が定める者 | 令和8年厚生労働省告示第279号 | 令和8年7月31日 |
| 作業環境測定法施行規則第3条の3第1項第2号の規定に基づき厚生労働大臣が定める要件 | 令和8年厚生労働省告示第292号 | 令和8年7月31日 |
いずれもパブリックコメントが行われ、提出意見を踏まえた案の修正はありませんでした(省令案は18件、告示案は19件の意見)。
令和6年改正省令の廃止
整備省令に関して、厚生労働省は次の点を公表しています。
意見募集時の概要では、労働安全衛生法第65条の3が新設されたこと等を踏まえ、有機溶剤中毒予防規則等の一部を改正する省令(令和6年厚生労働省令第44号)の改正規定の整備を行うとしていました。しかし、この整備に係る規定については、令和6年改正省令の内容も含めて、整備省令による改正後の厚生労働省関係省令において規定し直すこととし、これに伴い令和6年改正省令は、所要の経過措置等を設けたうえで廃止されます。
いつから始まるのか
- 改正法(令和7年法律第33号)の公布:令和7年5月14日
- 個人ばく露測定に関する部分の施行:令和8年(2026年)10月1日
- 整備省令の公布:令和8年7月29日
- 告示2本の公布:令和8年7月31日
誰に関係するか
化学物質を製造・取り扱う事業場で、リスクアセスメントの手法として個人ばく露測定を行っている、または行う予定の場合は、令和8年10月1日までに誰が測定するのかを確認する必要があります。自社に作業環境測定士がいない場合は、作業環境測定機関への委託を検討することになります。
あわせて、簡易的・予備的な測定として続けられるものと、資格が必要な個人ばく露測定にあたるものの区別を整理しておくと、対応の範囲が明確になります。
作業環境測定士・作業環境測定機関は、個人ばく露測定のデザイン・サンプリング・分析それぞれについて、誰が実施できるかの要件が告示で定まったことを確認してください。
出典
- 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)(厚生労働省)
- 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要(厚生労働省・PDF)
- 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備等に関する省令案に関する意見募集の結果について(e-Govパブリック・コメント)/意見募集結果(PDF)
- 作業環境測定法施行規則第3条の3第1項第2号の規定に基づき厚生労働大臣が定める要件(案)及び作業環境測定法施行規則第5条の2の2の規定に基づき厚生労働大臣が定める者(案)に関する意見募集の結果について(e-Govパブリック・コメント)/意見募集結果(PDF)