行政・手続き 重要度: 中

課徴金納付命令の審判手続がデジタル化 令和8年(2026年)11月30日施行 ウェブ会議での審問・電子メールでの送達が可能に(令和8年政令第293号・第294号)

令和8年(2026年)9月16日の官報に、次の2本の政令が公布されました。

政令内容施行日
令和8年政令第293号金融商品取引法等の一部を改正する法律(令和5年法律第79号)附則第1条第5号に掲げる規定の施行期日を定める政令令和8年11月30日
令和8年政令第294号情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための社債、株式等の振替に関する法律等の一部を改正する法律(令和5年法律第80号)附則第1条第3号に掲げる規定の施行期日を定める政令令和8年11月30日

同じ9月16日に、細目を定める内閣府令2本も公布されています。

  • 令和8年内閣府令第80号:金融商品取引法第六章の二の規定による課徴金に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令
  • 令和8年内閣府令第81号:公認会計士法の規定による課徴金に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令

金融庁は、この改正を「金融商品取引法及び公認会計士法の課徴金納付命令に係る審判手続のデジタル化に関し必要な事項を定める等、所要の規定の整備」と説明しています。

そもそも「課徴金納付命令の審判手続」とは

金融商品取引法に違反したとき——たとえばインサイダー取引、相場操縦、有価証券報告書の虚偽記載などがあったときに、金融庁は違反者に課徴金の納付を命じます。刑事罰とは別の、金銭的な行政上の措置です。

この命令を出す前には、金融庁の審判官が審判手続を開き、名宛人(被審人)の言い分を聞きます。審判手続は審判手続開始の決定(金融商品取引法第178条第1項)から始まり、審判期日には被審人や参考人が出頭して陳述します。公認会計士法にも、公認会計士・監査法人に対する課徴金について同じ仕組みがあります。

今回デジタル化されるのは、この審判手続の進め方です。課徴金の対象となる行為や金額の計算が変わるわけではありません。

11月30日から何が変わるか

意見公募に対する金融庁の回答から、次の取扱いが確認できます。

ウェブ会議による審問

審判官が相当と認めるときに限り、映像と音声の送受信による通話の方法(ウェブ会議)で、参考人や被審人の審問を実施できるようになります。金融庁は「原則どおり金融庁の審判廷で参考人・被審人審問を行うべきもの」との考え方を示しており、オンラインは例外的な位置づけです。

参考人が出頭する場所には、陳述に不当な影響を与える者が在席しない場所であることという要件が置かれます。

電子メールによる通知・送達

電子メールアドレスの届出と、インターネットを利用した送達・メールによる通知の規定が設けられます。メールが届かなかった場合の対応は、金融庁は「個別事例ごとに実態に即して対応すべきもの」としています。

公示送達はウェブサイトへ

公示送達(相手方の所在が不明な場合などに行う送達)は、施行後は金融庁のウェブサイトに所定の事項を表示するとともに、その事項が記載された書面を金融庁の掲示場に掲示する等の方法で行われます。官報や新聞紙への掲載に代わるものです。

外国においてすべき送達については、公示送達があったことを通知することができるという定め方で、通知するかどうかと方法は個別に判断されます。

事件記録の電子化と複写

事件記録が電磁的記録になることに伴い、利害関係人は金融庁が設置した端末を用いて、自分の使用に係る記録媒体に複写できます。金融庁は、これを「システムの利用が困難な利害関係人による電磁的事件記録の複写を可能とする」ための方法だと説明しています。

参考人・鑑定人の旅費と手当

あわせて、金融商品取引法の審判手続等における参考人及び鑑定人の旅費及び手当に関する内閣府令(令和7年内閣府令第21号)も改正されます。

適用の境目は「審判手続開始の決定」の日

内閣府令の附則は、施行日(令和8年11月30日)以後に審判手続開始の決定が行われる審判手続について適用し、施行日前に決定が行われた審判手続については、なお従前の例によるとしています。

つまり、11月29日までに決定が出ている事件は、最後まで従来のやり方で進みます。11月30日をまたぐ事件でも、途中から電子化されるわけではありません。

指摘された課題

内閣府令案への意見公募には8件の意見が提出されました。金融庁は案を修正せず、次の点を「運用上、留意してまいります」としています。

  • オンライン審問での第三者の同席をどう確認するか。カメラの画角外に第三者が潜んで指示や圧力を与えるリスクを排除できないとして、審問開始前に室内の全方位を撮影させる確認手順をガイドラインに明記するよう求める意見がありました。金融庁は「個別事例ごとに実態に即して審判官が適当と認める方法により実施すべきもの」として、画一的な基準は定めないとしています。
  • メールの不着で不利益を受けないためのセーフティネット。受領確認や電話での補助連絡を運用規程に盛り込むよう求める意見がありました。
  • 公示送達の「通知」の実効性。相手方の所在が不明な場合の制度であるのに通知の手段が不透明で、防御権の担保が見えにくいという指摘です。
  • 持ち込まれた記録媒体を庁内端末に接続することのセキュリティリスク。金融庁が指定・支給する媒体や安全なオンラインストレージに限定すべきという意見に対し、金融庁は「原案よりも制限することは利害関係人の権利を不当に制約することになりかねない」と回答しています。
  • 参考人の宣誓書の朗読。発声できない障害がある場合の代替手段を求める意見に対し、金融庁は、職員による代読は改正前から行われている代替手段であり、宣誓を自覚させる必要があるため署名押印などで代えることは適当でない、他法令でも同様だと回答しています。

いずれも「デジタル化そのものへの反対」ではなく、オンラインにしたときに手続の公正さをどう担保するかに集まっています。

誰に関係するか

課徴金納付命令の審判手続の当事者・代理人、参考人、公認会計士・監査法人に関わります。一般の生活者が直接手続をすることはありませんが、行政手続のオンライン化が、争訟に近い「審判」の場面にも及ぶという点で、他の行政手続の先行例になります。

なお、令和8年7月23日に公布された金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律(令和8年法律第64号)は別の改正です。こちらは金商法・資金決済法改正が公布(2026年7月23日)|暗号資産を金商法へにまとめています。

出典

家族に説明するなら

インサイダー取引や決算のうその記載をした会社や人に、国がお金(課徴金)を払わせるときには、その前に「審判」という言い分を聞く手続があるんだ。これまで紙と対面でやっていたその手続が、11月30日からオンラインでもできるようになるよ。呼ばれた人がウェブ会議で話したり、通知がメールで届いたりする。ふつうに生活している人には直接は関係しないけれど、行政の手続が紙から電子に変わっていく流れの一つだよ。

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