出入国在留管理庁は令和8年(2026年)10月1日、「永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン」を策定しました。令和6年の入管法改正で追加された、永住者を対象とする在留資格の取消事由について、解釈と想定事例を示したものです。運用開始は、改正規定の施行と同じ令和9年(2027年)4月1日です。
国会の附帯決議が「具体的な事例についてのガイドラインを作成し周知するなど、特に慎重な運用に努めること」を求めていたことを受けて作られました。
同じ10月1日には、永住許可の審査で考慮する要素を具体化した「永住許可に関するガイドライン」の改定も行われています。
新しい取消事由
令和6年の改正で、入管法第22条の4第1項に次の2つの号が加わりました。いずれも永住者だけが対象で、特別永住者は対象外です。
| 号 | 取消事由 |
|---|---|
| 第8号 | 入管法に規定する義務を遵守しないこと/故意に公租公課の支払をしないこと |
| 第9号 | 特定の刑罰法令に違反して拘禁刑に処せられたこと |
あわせて、国や地方公共団体の職員が取消事由に当たると思われる外国人を入管庁に通報できる規定(第62条の2)も置かれました。
入管法上の義務違反(8号)
対象になる「この法律に規定する義務」は、入管法上の義務のうち罰則で担保され、かつ退去強制事由には当たらないものです。ガイドラインが挙げる想定事例は次のとおりです。
- 在留カードの有効期間の更新や、紛失時の再交付の申請をしない
- 在留カード・旅券の携帯をしない、求められても提示を拒む
- 在留カードの偽変造、偽変造カードの行使・提供・収受(未遂の場合。既遂なら退去強制事由)
- 不法入国者等をかくまうなど、退去強制を免れさせる行為(未遂の場合)
過失による違反も取消事由には当たり得ます。 ただし、更新を失念した場合や不注意で携帯しなかった場合について、ガイドラインは「その一度の義務の不履行だけをもって在留資格を取り消すことは想定していません」と書いています。病気や災害など正当な理由がある場合は該当しません。
故意に公租公課を支払わないこと(8号)
公租は所得税・住民税・法人税・固定資産税などの租税全般、公課は国民健康保険・健康保険・国民年金・厚生年金の保険料などです。手数料・利用料や、罰金・反則金は含みません。申告が必要なのが明白なのに申告せず、本来払うべきものを払わない場合も含みます。
「故意に」支払わないとは、支払義務を認識しているのに、あえて支払わないことです。収入や財産、滞納の回数・額・期間、支払状況、滞納に至った経緯などを総合して、支払意思がないことが明白な場合が該当するとしています。
| 該当すると想定される事例 | 該当しないと想定される事例 |
|---|---|
| 長期間滞納し、届出なく転居するなどして所在不明になっている | 病気、災害、失業などやむを得ない事情で払えない(事業不振、感染症や災害による収入変動、DV被害による生活困難、ハラスメントによる離職なども例示) |
| 繰り返しの催告や滞納処分を受けても、納付の意思を示さない(何の相談もしないなど) | 催告等に応じて支払う意思を示し、分納や猶予を受けている |
| 分納や猶予の約束の期限までに納めないことを繰り返す | 生活保護に準じた措置を受けている |
| 脱税等で有罪判決を受けた | 給与から天引きされているのに、会社がその分を納めていない |
| 滞納処分を免れるため財産を隠すなどした | |
| 法人の代表など経営に実質的な影響力を持つ立場で、法人について上の事例に当たる |
滞納額や期間について一律の基準は設けないとしています。意見募集では目安を示すよう求める意見がありましたが、出入国在留管理庁は「一律の基準を定めることは、当該基準に満たない範囲での滞納を黙認しているかのような誤解を与える」として示しませんでした(意見No.7)。
改正法の施行前の不払も対象になり得ます。 永住許可後から施行前までに故意に支払わなかったことが施行後に判明した場合も、8号の取消事由に該当するとしています。ただし「施行前の一時点における事情のみをもって直ちに」取り消すのではなく、その後の支払状況も含めて判断するとし、対象は永住許可後の事象に限られると回答しています(意見No.11・27)。
なお、出入国在留管理庁のQ&Aは、差押えなどで事後的に不払が解消されても、それで必ず対象外になるわけではなく、解消された事実も含めて判断すると説明しています。
特定の刑罰法令違反(9号)
対象は、次の故意犯で拘禁刑(改正前の懲役・禁錮を含む)に処せられた場合です。刑期の長短を問わず、執行猶予が付いた場合も含みます。
- 刑法:住居侵入、通貨偽造、文書偽造・有価証券偽造・支払用カード電磁的記録・印章偽造、賭博・富くじ、殺人、傷害、逮捕・監禁、略取・誘拐・人身売買、窃盗・強盗、詐欺・恐喝、盗品等に関する罪
- 暴力行為等処罰法:集団的暴行・脅迫・器物損壊、常習的傷害・暴行等
- 盗犯等防止法:常習特殊窃盗、常習累犯窃盗、常習特殊強盗致傷
- ピッキング防止法:特殊開錠用具の不法販売・授与・所持、指定侵入工具の携帯
- 自動車運転死傷処罰法:危険運転致死傷(無免許運転による加重を含む)
- 盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律:指定金属切断工具の隠匿携帯
Q&Aは、過失運転致死傷、道路交通法違反、罰金刑は9号の対象にならないとしています。ただし、罪名にかかわらず無期または1年を超える実刑に処せられた場合は、従来どおり退去強制事由に当たり得ます。
取り消すか、「定住者」に変えるか
取消事由に当たっても、「引き続き本邦に在留することが適当でないと認める場合」を除き、法務大臣が職権で「永住者」以外の在留資格への変更を許可します(入管法第22条の6)。ガイドラインは、ほとんどの場合「定住者」への変更を想定しているとし、変更後に永住許可の要件を満たせば再び永住許可を受けることもできるとしています。
取消し(在留不可)になると想定されているのは次のような場合です。
- 義務違反:繰り返しの指導にもかかわらず在留カードの携帯・提示や更新をせず、今後も履行する意思がないと認められる。偽造在留カードの行使や不法入国者の逃走援助を図った
- 公租公課:今後も支払う意思がないことが言動で明らか、複数の公租公課の滞納を繰り返し今後も支払が見込めない、脱税等で有罪になった
- 刑罰法令:犯罪傾向が進んでいると認められる。例えば、永住許可後(施行前を含む)に拘禁刑の前科があり、さらに9号の罪で拘禁刑に処せられた
9号の罪で拘禁刑に処せられた場合は、執行猶予が付いても「初犯であっても職権変更とすることが想定されます」としています。一方で、取消相当と判断した場合でも、家族関係や人道上の配慮の必要性が特にあれば職権変更とする場合もあり得るとしています。
職権変更になった場合は、「定住者」等の在留期間の更新のたびに、義務の遵守状況や公租公課の支払状況が確認されます。
家族への影響について、Q&Aは、対象になるのは取消事由に当たる本人だけだと説明しています。子や配偶者が「永住者」なら影響はありませんが、配偶者が「永住者の配偶者等」の場合は在留資格に当たらなくなるため、「定住者」などへの変更が必要になります。
手続では、入国審査官が本人から意見を聴取し、本人または代理人は意見を述べ証拠を出せます。処分に不服がある場合は取消訴訟などを起こせます(Q&A)。
自治体職員などの通報
国・地方公共団体の職員は、職務の中で取消事由に当たると思われる外国人を知ったとき、入管庁に通報することができます。ガイドラインは、通報は義務ではなく、守秘義務を解除するための根拠規定だと説明しています。
通報の判断で確認することとして、対象が「永住者」であること(8号・9号の場合)、取消事由のいずれかに当たると思われることの2点を挙げています。公租公課については、度重なる催告や差押えなど滞納処分の過程で把握した事実から「支払意思がないことが明白」に当たる可能性があると考えられる場合に通報できる、としています。通報があっても、それだけで取消事由に当たると判断するのではなく、調査と意見聴取を経て判断します。
Q&Aは、税を払うために市区町村へ相談に行っただけで通報されることは想定していないと説明しています。
指摘された課題
意見募集は令和8年8月4日から9月3日まで行われ、2,850件の意見が寄せられました。
曖昧な表現が多く予見可能性がない(意見No.2・5・7)——「故意」「悪質」「社会通念上看過しがたい」といった表現では担当者次第になるという指摘や、滞納額・期間の目安を示すべきという指摘に対し、出入国在留管理庁は「可能な限り具体的な記載に努めた」とし、一律の基準は示しませんでした。
施行前の事情への遡及(意見No.11・27)——法的安定性の観点から施行後の事情に限るべきという意見に対し、永住許可後に要件をあえて満たさなくなった状況は施行前後で変わらないとして、施行前の不払も対象になるとしました。
日本弁護士連合会の意見書——日弁連は令和8年4月16日付の意見書で、対象を悪質な事案に限る運用の枠組み、意見聴取での代理人選任権の教示や理由付記などの適正手続、比例原則の遵守、自治体が住民福祉を考えて通報を差し控えることの尊重、遡及適用の禁止をガイドラインに明記するよう求めていました。意見書は、令和7年6月末時点の永住者数を93万2,090人としています。
家族への影響と手続保障(意見No.24・26)——国連人種差別撤廃委員会への政府回答を踏まえた家族への配慮や、通訳・代理人の同席などを明記すべきという意見に対し、出入国在留管理庁は定着性に十分配慮して運用する、法の規定に則って適正手続の確保に努めると回答しました。
より厳しくすべきという意見——職権変更ではなく取消しを原則とすべき(No.18・29)、初犯でも取り消すべき(No.22)、通報を義務にすべき(No.33)といった意見も寄せられました。出入国在留管理庁は、職権変更を原則とする仕組みは維持し、通報の義務化は「今後の制度設計の参考」とするにとどめています。