殺虫剤クロルピリホスの残留農薬基準が削除されます 令和8年(2026年)9月10日公布 大半の食品は令和9年9月10日から一律基準0.01ppmに(令和8年内閣府告示第114号)

令和8年(2026年)9月10日の官報(号外第202号)に、食品、添加物等の規格基準の一部を改正する告示(令和8年内閣府告示第114号)が公布されました。食品衛生法第13条第1項にもとづき、昭和34年厚生省告示第370号「食品、添加物等の規格基準」を改正するものです。

改正の対象は農薬5品目です。このうちいちばん影響が大きいのが、殺虫剤クロルピリホスの残留基準値がすべて削除されたことです。

なお、食品衛生基準行政は令和6年4月1日に厚生労働省から消費者庁へ移りました。以前は厚生労働省告示だったこの規格基準が「内閣府告示」になっているのはそのためです。

何が変わるのか

農薬用途今回の扱い
キノクラミン除草剤残留基準値の改正(引下げ)
クロルピリホス殺虫剤残留基準値をすべて削除
スピロジクロフェン殺虫剤残留基準値の設定・改正
スピロピジオン殺虫剤残留基準値を新規に設定
プロパモカルブ殺菌剤残留基準値の設定・改正

「基準値の削除」は規制の緩和ではありません

ここが誤解されやすいところです。

日本は2006年から食品に残留する農薬についてポジティブリスト制度をとっています。個別に残留基準値が決められている食品はその値が上限になり、基準値が決められていない食品には「一律基準」(0.01ppm)が適用されます。

つまり、個別の基準値を削除すると、その食品には自動的に0.01ppmという厳しい値がかかります。消費者庁の施行通知も「別紙のうち残留基準値の欄が空欄の食品及び表中にない食品については、一律基準(0.01 ppm)を適用すること」と明記しています。

クロルピリホスで削除される基準値は、たとえば次のとおりです(いずれも改正前の値。改正後はすべて一律基準0.01ppm)。

食品改正前の残留基準値改正後
茶10ppm0.01ppm(一律基準)
ブロッコリー2ppm0.01ppm
ピーマン2ppm0.01ppm
その他のなす科野菜2ppm0.01ppm
バナナ2ppm0.01ppm
小麦0.5ppm0.01ppm
その他の穀類0.5ppm0.01ppm
りんご0.5ppm0.01ppm
ぶどう0.5ppm0.01ppm
魚介類0.3ppm0.01ppm
大豆0.1ppm0.01ppm
とうもろこし0.05ppm0.01ppm
牛の筋肉0.05ppm0.01ppm
とうもろこし油0.2ppm0.01ppm
ミネラルウォーター類0.03ppm0.01ppm

このほか、だいこん類の根、たまねぎ、にんじん、みかん、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、日本なし、西洋なし、もも、いちご、ごまの種子、綿実、アーモンド、くるみ、コーヒー豆など、あわせて数十の食品について基準値が削除されます。豚の筋肉・脂肪、鶏の卵、乳など、もともと0.01ppmが設定されていたものも削除されますが、こちらは一律基準と同じ値なので実質的な変化はありません。

なぜクロルピリホスなのか — ストックホルム条約で廃絶が決定

理由は国際条約です。

消費者庁は意見公募の結果公示で、次のように説明しています。

クロルピリホスについては、ストックホルム条約の第12回締約国会議(COP12)において、製造・使用等が禁止される附属書A(廃絶)への掲載が決定しており、締約国は、令和8年12月16日の条約発効までに必要な対応を進めることとされています。

ストックホルム条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約、いわゆるPOPs条約)の附属書Aに載った物質は、締約国が製造・使用を廃絶することになります。日本での条約発効は令和8年12月16日です。

食品衛生基準審議会の農薬・動物用医薬品部会の資料でも、クロルピリホスを含む「国内で使用がない農薬」について、農薬の登録等はなく、国際基準も設定されていないこと、輸入時検査での検出は過去5年間で数件程度であることが確認されたうえで、「基準値を削除することにより、現状より厳しいリスク管理措置である一律基準となることからリスクが高まることはない」と整理されています。

また今回の削除については、令和8年5月5日から7月4日まで、WTO/SPS協定にもとづく加盟国からの意見提出の機会も設けられています。

いつから適用されるのか

ここが実務でいちばん重要な部分です。

  • 原則:告示の日(令和8年9月10日)から施行し、改正後の残留基準値も同日から適用
  • 例外:基準値を引き下げる食品については、告示の日から起算して1年を経過した日(令和9年9月10日)から施行・適用

クロルピリホスで削除される食品の大半は、この「1年後」のグループに入ります。消費者庁の施行通知は、1年後に適用される食品として、クロルピリホスについて小麦・とうもろこし・その他の穀類・大豆・小豆類・ばれいしょ・かんしょ・てんさい・さとうきび・だいこん類の根・だいこん類の葉・カリフラワー・ブロッコリー・たまねぎ・にんじん・その他のせり科野菜・ピーマン・その他のなす科野菜・しょうが・その他の野菜・みかん・なつみかん・レモン・オレンジ・グレープフルーツ・ライム・その他のかんきつ類果実・りんご・日本なし・西洋なし・マルメロ・びわ・もも・ネクタリン・すもも・いちご・ブルーベリー・クランベリー・ぶどう・バナナ・その他の果実・ごまの種子・綿実・その他のオイルシード・ペカン・アーモンド・くるみ・茶・コーヒー豆・その他のスパイス・その他のハーブ・牛の筋肉・その他の陸棲哺乳類に属する動物の筋肉・牛の脂肪・その他の陸棲哺乳類に属する動物の脂肪・魚介類・ミネラルウォーター類・とうもろこし油を挙げています。

キノクラミンは米(玄米)とその他の野菜、スピロジクロフェンはなす・きゅうり・かんきつ類・りんごなど、プロパモカルブは米(玄米)・てんさい・はくさい・レタスなどが同じく1年後の適用です。

さらにクロルピリホスについては、経過措置が置かれました。1年後に適用される食品については、施行日前に製造され、輸入され、又は加工された食品を製造・加工・使用・調理・保存・販売する場合に限り、なお従前の例によることができます。

意見公募で指摘された課題

この告示案には、令和8年6月11日から7月10日まで意見が募集され、46件の意見が寄せられました。うち42件がクロルピリホスに関するものです。そして今回は、提出意見を踏まえて案が修正されています(e-Govの結果公示で「提出意見を踏まえた案の修正の有無:有」)。

意見公募で出された主な指摘は次のとおりです(消費者庁が要約して公表しているもの)。

  • 経過措置が短すぎる:新基準の適用までの期間が短く対応が困難。生産国での農薬管理体制の整備、代替手法への移行、サプライチェーン全体への周知、検査体制の整備、契約済み原料や在庫への対応に時間がかかる。猶予期間が短いと供給不足・食品ロス・コスト増加・不適合品の増加につながる
  • 既存在庫や流通品の扱いが不明:基準変更前に適法に生産・契約された在庫が使えなくなり、大量の食品ロスや経済的損失が生じる懸念がある
  • 生産国側の体制:小規模生産者が多い食品ではトレーサビリティや農薬管理体制が十分でなく、規制と現場運用にギャップがある。日本政府から生産国政府への周知・協議・制度整備支援を求める
  • 非意図的な混入:現行基準を超えない微量の検出事例があり、非意図的混入や環境残留によって新基準を超える可能性がある
  • 決定プロセスの説明不足:施行期日が「令和8年12月頃」とされた科学的・行政的根拠と、その決定時期・決定会議体・決定プロセスの説明を求める

消費者庁はこれらを受けて、原則として告示の日に施行することとした一方、基準値を引き下げる品目については施行期日を「告示の日から起算して一年を経過した日」とし、施行日前に製造等された食品について一定の経過措置を設けることとしたと回答しています。当初案は条約発効(令和8年12月16日)に合わせる内容でしたが、猶予が約9か月伸びたことになります。

クロルピリホス以外についても、「残留基準を安易に緩和せず、より厳格な方向で見直すべき」「子どもや妊婦、高齢者など健康への影響を受けやすい人を前提とした安全性評価を重視すべき」「複数の農薬や食品添加物を日常的に摂取することによる複合的な影響を慎重に評価すべき」といった意見が出ています。

複合的な影響について、消費者庁は「現段階では国際的にも評価手法として確立したものはありません。FAO/WHOでは、JMPR(FAO/WHO合同残留農薬専門家会議)等において、複数の化合物への暴露に対するリスク評価手法について検討することとされていることから、引き続き、最新の情報収集に努めてまいります」と回答しています。

いま確認したいこと

消費者の方:やることはありません。今回の改正は、規制を緩めるものではなく、クロルピリホスについては厳しくするものです。日本ではこの農薬はすでに登録されておらず、輸入時検査での検出も過去5年間で数件程度と説明されています。

食品を扱う事業者の方:

  • 取り扱う品目が施行通知(消食基第385号)の別紙に載っているかを確認してください。基準値の欄が空欄なら一律基準(0.01ppm)が適用されます
  • 「令和9年9月10日から適用」の表に自社の品目があるかを確認し、産地・サプライヤーへの周知や契約の切替え時期を逆算してください
  • 経過措置があるのはクロルピリホスの、その表に載っている食品だけです。施行日前に製造・輸入・加工されたものに限られます
  • 検査を委託している場合、令和9年9月10日以降の定量下限が0.01ppmに対応できるかを検査機関に確認してください

問合せ先:消費者庁食品衛生基準審査課残留農薬等基準審査室(電話03-3507-9352)

出典

家族に説明するなら

食べ物に残っていい農薬の量には、農薬ごと・食品ごとに上限が決まっているんだ。今回、クロルピリホスという殺虫剤について、その上限の数字そのものがなくなることになったよ。数字がなくなると、代わりに「一律基準」という0.01ppmというとても小さい値が使われる。つまり、ゆるくなるんじゃなくて、逆にうんと厳しくなるということ。理由は、この農薬を世界中でやめようという国際条約(ストックホルム条約)で廃絶が決まったから。日本ではもう登録もされていない農薬だよ。ただ、輸入食品も多いので、いきなり切り替えると混乱するという意見がたくさん出て、大半の食品は1年後の2027年9月10日からになった。買い物のしかたを変える必要はないよ。

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