令和8年(2026年)10月1日、日本学術会議法(令和7年法律第70号)が施行され、日本学術会議は法人として発足しました。昭和23年に制定された旧日本学術会議法(昭和23年法律第121号)は、新法の附則第28条で廃止されています。
日本学術会議は、これまで内閣府の特別の機関でした。新法の下では、特別の法律で設立される法人になります(第3条)。目的は「我が国の科学者の内外に対する代表機関として」学術の向上発達を図るとともに、学術に関する知見を活用して社会の課題の解決に寄与することとされています(第1条)。
関係する政府の命令は次のとおりです。
- 日本学術会議法施行規則(令和8年内閣府令第88号・10月1日公布・同日施行)— 会長選任時に公表する事項、選定助言委員・運営助言委員・評価委員になれない者などを定める
- 日本学術会議会員候補者の内閣総理大臣への推薦手続を定める内閣府令を廃止する内閣府令(令和8年内閣府令第83号・9月30日公布・10月1日施行)
何が変わったか
| 項目 | 新しい日本学術会議法での扱い |
|---|---|
| 位置付け | 法人(第3条)。資本金は国から承継した資産をもとに政府が出資したものとされる(第5条・附則第18条) |
| 会員 | 250人・任期6年・再任1回まで。75歳に達した後の最初の9月30日に退職(第9条) |
| 会員の選び方 | 会員候補者選定委員会が選定方針に従って候補者を選び、総会の決議で選任(第29条・第30条) |
| 会長 | 会員のうちから総会が決議で選任。選任の理由などを公表(第21条) |
| 監事 | 2人。会員以外の者から内閣総理大臣が任命(第23条) |
| 評価 | 内閣府に日本学術会議評価委員会を置き、委員5〜7人を内閣総理大臣が任命(第51条) |
| 計画 | 6事業年度ごとに中期的な活動計画、毎年度の年度計画、毎年度の自己点検評価(第42条〜第44条) |
| 財源 | 政府は予算の範囲内で業務の財源を補助できる(第48条) |
| 政府との関係 | 政府は会議に諮問でき、会議は政府に勧告できる(第38条・第39条)。国は運用に当たり会議の「自主性及び自律性に常に配慮しなければならない」(第2条第2項) |
会員の選び方 — 総会が選任
旧法では、会員は会議の推薦に基づいて内閣総理大臣が任命していました。新法では内閣総理大臣の任命はなくなり、次の流れで総会が選任します。
- 会議が選定方針を作る。会員候補者選定委員会が、会員以外の科学者5〜7人でつくる選定助言委員会の意見を聴いて案を作り、総会の決議で決める(第31条)
- 会員候補者選定委員会(会員10〜20人)が、会員・大学・研究機関・学会・経済団体その他の民間の団体など多様な関係者から推薦を求める(第30条第2項)
- 研究分野ごとの分野別業績審査委員会が「優れた研究又は業績」があるかを審査する(第30条第3項)
- 年齢・性別・所属機関の種類や地域に著しい偏りが出ないこと、学際的な分野や産業界等との連携の実績がある科学者を含めることなどに配慮して候補者を選ぶ(第30条第4項)
- 総会の決議で選任する。選任した会員の業績と理由を公表するなどして、選任の過程を明らかにするよう努める(第29条)
会員の選任は3年ごとに半数ずつ行います(第28条)。会員が会議の業務に関して著しく不適当な行為をしたときは、会員候補者選定委員会の求めに基づき、総会が3分の2以上の多数で解任できます(第32条・第13条第3項)。
政府が関わる部分
法人になったことで、独立行政法人に近い仕組みが入りました。
- 監事2人は会員以外から内閣総理大臣が任命し、業務を監査する。不正や法令違反の事実があれば、会長・総会と内閣総理大臣に報告する(第19条・第20条)
- 日本学術会議評価委員会(内閣府に置く。委員は内閣総理大臣が任命)が、会議の自己点検評価と中期的な活動計画に意見を述べ、意見の内容を内閣総理大臣に通知する(第42条第3項・第44条・第51条)
- 財務諸表は内閣総理大臣の承認を受ける(第45条)
- 内閣総理大臣は報告を求め、立入検査ができる。不正や法令違反があると認めるときは是正の措置を求めることができる(第49条・第50条)
会長の諮問に応じて意見を述べる運営助言委員会(会員以外の10〜15人)は、会長が任命します(第27条)。
発足時の経過措置
- 会員予定者125人は、現行の日本学術会議が候補者選考委員会の選考に基づいて推薦し、それに基づいて内閣総理大臣が指名した。指名された人は10月1日に総会が選任したものとみなされる(附則第3条〜第7条)。候補者選考委員の任命では、内閣総理大臣が指定する有識者と協議することとされた(附則第6条第5項)
- 10月1日時点の現会員は、そのまま新しい会議の会員になる(承継会員)。任期は令和11年(2029年)9月30日までで、再任はない(附則第11条)
- 令和11年9月30日までは、会員の定数を230人として扱う(附則第23条)
- 職員は、別に辞令を発せられない限り、新しい会議の職員になる(附則第12条)
- 中期的な活動計画は、令和9年4月1日に始まる事業年度からの6年分について作る(附則第25条)
政府は、施行後6年を目途に法律の規定を検討し、必要な措置を講ずるとされています(附則第27条)。
指摘された課題
法案は令和7年3月7日に国会に提出され、5月13日に衆議院、6月11日に参議院で可決されて成立しました(参議院の議案情報)。参議院では修正案が提出されましたが否決され、附帯決議が付されています。
日本学術会議の懸念——光石衛会長は法案の国会提出前の令和7年2月27日の会長談話で、ナショナルアカデミーに必要な5要件(学術的に国を代表する地位、そのための公的資格、国家財政による安定した財政基盤、活動面での政府からの独立、会員選考の自主性・独立性)を挙げたうえで、検討中の法案は「法人発足時の『特別な選考』、監事及び評価委員の主務大臣任命を含む仕組み、選考助言委員会の法定化、会員選考の自主性・独立性、活動面の独立性、安定的な財政基盤等」について懸念を払拭するものになっていない、と述べていました。
成立後の会議の受け止め——会議は成立翌日の令和7年6月12日に会長談話「日本学術会議法案の成立を受けて」を公表しています。会議事務局の報告によると、光石会長は同日の記者会見で、担当大臣に対し附帯決議への誠意ある対応を求めたと説明しました。
政府側の配慮規定——新法は、国に対し運用に当たって会議の「運営における自主性及び自律性に常に配慮しなければならない」と義務付けています(第2条第2項)。財源は「予算の範囲内において…補助することができる」という規定です(第48条第1項)。
出典
- 日本学術会議法(令和7年法律第70号)(e-Gov法令検索)
- 日本学術会議法案(第217回国会 閣法第36号)議案情報(参議院)
- 日本学術会議会長談話「日本学術会議の法人化に関する法案の検討状況について」(令和7年2月27日)
- 第26期幹事会記者会見資料(日本学術会議)
- 日本学術会議法施行規則(令和8年内閣府令第88号・令和8年10月1日公布/官報本紙第1799号)
- 日本学術会議会員候補者の内閣総理大臣への推薦手続を定める内閣府令を廃止する内閣府令(令和8年内閣府令第83号・令和8年9月30日公布/官報本紙第1798号)
- 令和8年10月1日付 官報 目次(インターネット版官報)