何が起きたか
令和8年(2026年)9月9日の官報(本紙第1786号)に、予備自衛官等の職務の円滑な遂行を図るための国家公務員及び地方公務員の兼業の特例に関する法律の施行期日を定める政令(令和8年政令第273号)が公布されました。
内閣は、予備自衛官等の職務の円滑な遂行を図るための国家公務員及び地方公務員の兼業の特例に関する法律(令和八年法律第四十号)附則第一項の規定に基づき、この政令を制定する。
予備自衛官等の職務の円滑な遂行を図るための国家公務員及び地方公務員の兼業の特例に関する法律の施行期日は、令和九年四月一日とする。
署名は内閣総理大臣・高市早苗、防衛大臣・小泉進次郎です。
対象になるのは、令和8年6月17日に公布された予備自衛官等の職務の円滑な遂行を図るための国家公務員及び地方公務員の兼業の特例に関する法律(令和8年法律第40号)です。防衛省はこれを「予備自衛官等兼業特例法」と呼んでいます。法律の附則第1項は「公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日」から施行するとしており、今回の政令でその日が令和9年(2027年)4月1日に確定しました。
この法律は令和8年4月3日に閣議決定されて第221回国会に提出(閣法第50号)され、衆議院で5月19日、参議院で6月10日に可決・成立しました。
予備自衛官等とは
前提として、制度の全体像を確認しておきます。参議院常任委員会調査室の資料によれば、次のような仕組みです。
予備自衛官等は、予備自衛官・即応予備自衛官・予備自衛官補の3つをまとめた呼び方です。ふだんは民間企業や役所などで働いていて、必要なときに招集されて自衛官として任務にあたります。身分は非常勤の特別職国家公務員です。
| 対象 | 訓練日数 | 令和7年3月31日現在の現員 | |
|---|---|---|---|
| 予備自衛官 | 自衛官経験者等 | 年5日で運用 | 31,744人 |
| 即応予備自衛官 | 自衛官経験者等 | 年30日 | 3,859人 |
| 予備自衛官補 | 主として自衛官未経験者 | 一般は3年以内に50日、技能は2年以内に10日 | 3,030人 |
予備自衛官は防衛招集命令・国民保護等招集命令・災害招集命令を受けて自衛官となり、駐屯地の警備、後方支援、避難住民の救護・誘導、災害救助活動等にあたります。即応予備自衛官はこれに治安招集命令が加わり、あらかじめ指定された陸上自衛隊の部隊で常備自衛官と同様の任務にあたります。
実際の招集の例として、東日本大震災では即応予備自衛官1,352人・予備自衛官294人が招集され、給水支援や入浴支援、物資輸送、行方不明者の捜索などにあたりました。能登半島地震では、医師や看護師の資格を持つ予備自衛官20人が巡回診療に、即応予備自衛官183人が物資輸送に従事しています。
なぜこの法律ができたか
防衛省が法律案の概要で挙げている理由は、充足率です。
予備自衛官等は未充足の状況が継続(予備自衛官:約7割、即応予備自衛官:約5割)
参議院の資料にある令和6年度の充足率は、予備自衛官66.3%、即応予備自衛官48.4%、予備自衛官補65.6%です。予備自衛官の充足率は令和元年度の71.8%から下がり続けています。
これを受けて、令和6年12月20日に取りまとめられた「自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する基本方針」で、令和8年度中に「国家公務員又は地方公務員が予備自衛官等の職を兼ねる場合においても、訓練に参加しやすくするための制度整備を行う」こととされました。今回の法律はそれにあたるものです。
前提として、国家公務員・地方公務員には職務に専念する義務(国家公務員法第101条第1項、地方公務員法第35条)があり、許可なく報酬を得ていかなる事業・事務にも従事してはならない(国家公務員法第104条、地方公務員法第38条第1項)とされています。予備自衛官等を兼ねようとすると、この2つが手続きの壁になります。法律はここに特例を設けるものです。
何が変わるか——3点
防衛省が示している現状と特例措置の対比は、次のとおりです(一般職国家公務員の場合)。
① 兼業の許可
- 現状:予備自衛官等になる時に許可を要し、招集に応じる際にも許可を要する場合あり
- 特例:予備自衛官等になる時に招集に応じることも含め承認を受ける(招集に応じる際は不要)
承認するのは所轄庁の長です(第3条第1項)。承認を受けた職員が予備自衛官等の職務に従事することについては、国家公務員法の兼業の許可を要しません(第3条第4項)。
② 勤務時間中に招集に応じる場合の職務専念義務の免除
- 現状:所轄庁の長等が、職務専念義務の免除の可否を判断
- 特例:職務専念義務は免除とする
承認を受けた職員が招集命令・訓練招集命令・教育訓練招集命令を受け、勤務時間においてこれらの招集に応ずるため勤務しない場合、その勤務しない時間については、国家公務員法の職務に専念する義務に関する規定は適用されません(第3条第3項)。毎回の判断が要らなくなる、という趣旨です。
③ 訓練招集に応じる間の給与
- 現状:訓練招集に応じた期間の本務の給与を減額(訓練招集に応じたことによる手当は支給)
- 特例:訓練招集に応じた期間の本務の給与は減額しない(手当は引き続き支給)
ここは注意が必要です。減額されなくなるのは訓練招集命令・教育訓練招集命令の場合だけです。防衛招集・災害招集などの招集命令に応じて勤務時間中に勤務しない場合は、その勤務しない1時間につき、勤務1時間当たりの給与額を減額して給与を支給すると定められています(第3条第5項)。
誰が対象か
| 区分 | 承認する人 | 準用される規定 |
|---|---|---|
| 一般職の国家公務員 | 所轄庁の長 | 第3条(本体) |
| 一般職の地方公務員 | 任命権者 | 第6条 |
| 行政執行法人の職員 | 読替えあり | 第3条第2項・第6項・第7項 |
| 特定地方独立行政法人の職員 | 読替えあり | 第6条第2項 |
| 裁判所職員 | — | 第3条第1項・第3項・第4項・第5項を準用(第4条) |
| 自衛隊員 | — | 第3条第1項・第3項・第4項を準用(第5条、給与は政令) |
地方公務員については、給与の減額の規定(第3条第5項に相当するもの)が法律には置かれていません。 地方公務員の給与は条例で定めることになっている(地方公務員法第24条第5項)ためです。実際の取扱いは各自治体の条例によります。
行政執行法人の職員の給与の支給の基準は、当該法人が第3条第5項を参酌して定め、主務大臣に届け出るとともに公表しなければならないとされています(第3条第6項・第7項)。
法律にはこのほか、目的(第1条)、定義(第2条)、国の責務(第7条)、政令への委任(第8条)が置かれています。国の責務は、広報活動・啓発活動その他の活動を通じて、予備自衛官等の職務の重要性に対する国民の関心と理解を深めるよう努める、というものです。附則第2項には、暫定再任用短時間勤務職員等に関する経過措置が定められています。
民間企業は対象外です
この法律の対象は公務員等であり、民間企業の従業員は含まれません。
小泉進次郎防衛大臣は、法律案が閣議決定された令和8年4月3日の記者会見で次のように述べています。
今回の法案は、民間の方々は対象ではありませんが、引き続き、予備自衛官等を雇用する企業におかれましても、公務員に倣った措置を期待しており、今後の更なる予備自衛官の充足率の向上に繋げていきたいと考えています
民間企業向けには、これまでも別の仕組みが用意されています。参議院の資料が整理しているものでは、即応予備自衛官雇用企業給付金(1人当たり月額42,500円・年額510,000円)、予備自衛官等協力事業所表示制度、雇用主に対する情報提供制度、即応予備自衛官育成協力企業給付金(1人当たり560,000円)、雇用企業協力確保給付金(日額34,000円・上限90日)などがあります。これらは今回の法律で変わるものではありません。
指摘された課題
参議院常任委員会調査室・特別調査室が発行する「立法と調査」(2026年5月・No.484、外交防衛委員会調査室 天池恭子)は、この法律案について効果が限定的にとどまる可能性を指摘しています。
令和6(2024)年度末における予備自衛官全体に占める公務員の割合は4.3%、即応予備自衛官では1.2%、予備自衛官補では2.9%となっており、予備自衛官等の兼業を行う公務員が倍増しても、予備自衛官等の充足率が大幅に向上するとは考えにくい。やはり、民間企業における取組にどこまで波及するかが充足率向上の重要な要素となるであろう。
つまり、そもそも予備自衛官等に占める公務員の割合が小さいため、公務員だけを対象にした特例では全体の充足率を大きくは動かせないのではないか、という指摘です。同資料は、法律で国の責務として明記された広報活動等の成果が問われることになるとしています。
予備自衛官等の制度に関してはこれまで様々な施策が講じられてきたが、充足率の顕著な向上には至らなかった。本法律案が成立した場合、予備自衛官等の充足率を含めた状況にどのような影響を与えることになるのか、今後の動向が注目されよう。
なお、予備自衛官等の処遇そのものは近年引き上げられています。予備自衛官手当は令和7年9月に月額4,000円から12,300円へ、令和8年4月に13,100円へ引き上げられ、訓練招集手当は令和7年9月に日額8,100円から11,000円へ、令和8年4月に11,600円へ引き上げられました。即応予備自衛官手当も令和8年4月に月額19,700円になっています。
注意点
- 施行は令和9年(2027年)4月1日です。 それまでは現行の許可の手続きが続きます
- 減額されなくなるのは訓練招集・教育訓練招集の間の本務の給与だけです。災害招集などの実運用の招集に応じた時間は、これまでどおり減額されます
- 地方公務員の給与の取扱いは条例によります。 法律には地方公務員についての減額規定が置かれていません
- 民間企業の従業員は対象外です。 就業規則で同様の扱いをするかどうかは各社の判断になります
- 承認を受けるかどうかは職員が選ぶもので、義務ではありません。「承認を受けることができる」と定められています
- この法律は予備自衛官等の募集要件や訓練内容を変えるものではありません。変わるのは公務員側の兼業・職務専念義務・給与の手続きです
公式リンク
- 防衛省の提出法案(防衛省)
- 予備自衛官等兼業特例法案 概要(防衛省・PDF)
- 予備自衛官等兼業特例法案 要綱(防衛省・PDF)
- 予備自衛官等が招集に応じやすい環境の整備に向けた取組-予備自衛官等兼業特例法案の概要-(参議院「立法と調査」No.484・PDF)
- 議案審議情報(参議院)
- 令和8年9月9日付 官報 本紙第1786号(インターネット版官報)
- 予備自衛官・即応予備自衛官・予備自衛官補(陸上自衛隊)
根拠
- 予備自衛官等の職務の円滑な遂行を図るための国家公務員及び地方公務員の兼業の特例に関する法律の施行期日を定める政令(令和8年政令第273号・令和8年9月9日公布/官報本紙第1786号)
- 予備自衛官等の職務の円滑な遂行を図るための国家公務員及び地方公務員の兼業の特例に関する法律(令和8年法律第40号・令和8年6月17日公布)
- 予備自衛官等の職務の円滑な遂行を図るための国家公務員及び地方公務員の兼業の特例に関する法律案要綱(防衛省・令和8年4月3日)
- 予備自衛官等兼業特例法案 概要(防衛省・令和8年4月)
- 天池恭子「予備自衛官等が招集に応じやすい環境の整備に向けた取組-予備自衛官等兼業特例法案の概要-」立法と調査 No.484(参議院事務局企画調整室・2026年5月22日)
- 国家公務員法(昭和22年法律第120号)第101条第1項・第104条
- 地方公務員法(昭和25年法律第261号)第24条第5項・第35条・第38条第1項
- 自衛隊法(昭和29年法律第165号)第70条・第71条・第75条の4